Books: 2007年12月アーカイブ

December 14, 2007

「軍犬と世界の痛み」(マイクル・ムアコック著)

「軍犬と世界の痛み」●西洋人はホントに聖杯伝説が好きっすよね。オペラならワーグナーの「パルジファル」、映画なら「ダ・ヴィンチ・コード」(見てないけど)とかテリー・ギリアムの「フィッシャー・キング」、コメディなら「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」。で、この本もそう。マイクル・ムアコックのヒロイック・ファンタジー「永遠の戦士」シリーズの一つ「軍犬と世界の痛み」(ハヤカワ文庫)が復刊。「エルリック」等、他のシリーズとは版元が違っていたので、ワタシは初めて読んだ。
●このシリーズは舞台設定が架空のどこかじゃなくて、現実の過去なので歴史モノでもある。舞台は17世紀、三十年戦争真っただ中のドイツ。歩兵軍団長ウルリッヒ・フォン・ベック伯爵が「聖杯」を探索するという物語。うっかり見知らぬ城に迷い込んだら、なんだか生き物の気配が全然しなくて「おかしいなー」と思ったら、城主が地獄の王ルシファーだったというところからスタートするという、トンデモない聖杯探索。他のムアコック作品がそうであるように、主人公フォン・ベックに万能性はなく、むしろ弱い。戦いの中で信仰を捨て、軍犬と呼ばれるほど無慈悲な戦士となるが、明敏な知性と高貴なふるまいによって、己と時代の運命を切り開くという人物像が魅力。
●この数年、ムアコックはどんどん再刊されているので、これから読む方には「エルリック」とか「コルム」のシリーズがオススメ。
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●浦和レッズがミランに勝ってしまうという世界的誤算の予感がしてたんだが、そうはならず。
●こんなのがあったのでした。「今年の漢字ジェネレーター」。どぞ。

December 11, 2007

「さくらんぼの性は」(ジャネット・ウィンターソン著)

さくらんぼの性は●11月から師走状態で息も絶え絶え、しかし電車の移動時間中に読んだ、「さくらんぼの性は」(ジャネット・ウィンターソン著/岸本佐知子訳/白水Uブックス)。新刊じゃないけどすばらしかったので紹介しちゃおう。舞台はピューリタン革命と疫病が猛威を振るう17世紀イギリス。大女のもとに川から子供が流れてくる。大女は子供にジョーダンと名づける(ヨルダン川にかけている。日本なら桃太郎か)。そのジョーダンの夢と冒険の旅を描く……と書いても全然意味不明だが、イギリス版魔術的リアリズムというべきか、ガルシア・マルケス風の幻想に千一夜物語風の説話性が加わったというステキな話である、が、ひどく感心してしまったのが、本筋とはズレたところかもしれんが、以下の部分だ。ある女性が女装したジョーダンに親切にも「男の本質」を伝えるために虎の巻を渡す。そこにはこう書いてあった。

1. 男を喜ばすのは簡単だが、次から次へ別の手を使って喜ばせないと、その喜びは決して長持ちしない。
2. 男を情熱的にさせるのは簡単だが、その情熱を長続きさせることはできない。
3. 男は優しい女の尻ばかり追い回すが、結局強い女なしには何一つまともにできない。
4. 男は常に何かで忙しくさせておかないと、すぐに悪さをする。
5. 男は、自分たちを重く、女たちを軽いものだと考えている。だから、荷厄介になった男は、首に石をゆわえつけて川に沈めるだけで簡単に片が付く。
6. 男は男どうしで一つ所にまとめておいて、そこで互いに飲んだくれるなり競争するなりして力を使い果たさせてしまうのが一番いい。そのあいだに女は、誰にも邪魔されずにゆっくりと自分の人生を楽しむことができる。
7. 間違っても、一番大切にしているものを男に預けてはならない。もしも一番大切なものが男なら、そのことは当人には黙っておくこと。
(中略)
10. 女の一番の強みは、男が女の能力も何もかも全部知ったつもりになっていることである。

 主人公ジョーダンはこの虎の巻を読んで激しく動揺する。ここに書いてあることが全部本当だと認めないわけにはいかなかったから。この本を読んだワタシも動揺した。同じく、ここに書いてあることが全部本当だからだ。特にお気に入りを一つ挙げると、「男は常に何かで忙しくさせておかないと、すぐに悪さをする」ってヤツだ。いや、お気に入りっていうのもヘンか。でもこれほどの真実がほかにあるだろうか。

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