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Books: 2023年9月アーカイブ

September 27, 2023

「パワー」(ナオミ・オルダーマン著/安原和見訳/河出文庫)

●文庫化されたナオミ・オルダーマン著「パワー」(河出文庫)を読む。おもしろい。amazonプライムで映像化されているそうだが、知らずに楽しんだ。書名の「パワー」とは、ある日を境に女性だけが持つことになった電気的な力のこと。あらゆる女性が電撃によって人を攻撃できるようになり、男女の力関係がすっかり逆転してしまうというストーリー。女性はその気になればいつでも暴力で男性を痛めつけることができる。そんな設定のもと、現在の男性優位社会が逆転した世界が描かれる。それまで男性が無自覚的に権力(パワー)を手にしてきたことがあらわになるわけだが、女性優位の社会なら世の中がフェアになるみたいなぬるい話ではなく、容赦のない男女逆転復讐ファンタジーがくりひろげられる。
●で、それだけだと、そんなに斬新なアイディアとはいえないかもしれないし、男性は一部の暴力描写にドン引きしてしまうわけだが(でもそれは現実世界で起きていることの裏返しでもある)、この「パワー」はパニック小説として秀逸で、あえてB級SFテイストを狙っているようなところがあるのが痛快。エンタテインメントとしての期待を裏切らない。あと、パニック小説の外枠の物語が設定されているのだが、これが秀逸で、かなり皮肉が効いている。

September 7, 2023

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康著/SB新書)

●これはだいぶ前に読んだ本なんだけど、先日ふとしたきっかけで思い出したので備忘録代わりに。「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康著/SB新書)という一冊。煽り気味の書名に抵抗を覚えるかもしれないが(ワタシ自身もSB新書から本を出させてもらってるのでナンだけど)、中身は行動遺伝学の本でたいへん興味深い。特に「なるほど」と膝を叩いたのは、人間のさまざまな能力や性格などについて、遺伝による影響と環境による影響を切り分けるために、一卵性双生児と二卵性双生児で相関を比較するという手法。一卵性双生児は100%、二卵性双生児は50%の遺伝子を共有している。1万組近くの双生児のデータを調査して、双生児のペアの学力やIQ、才能等について相関係数を算出している。
●極端に遺伝の影響が強いのが音楽や数学の能力で、一卵性双生児のペアの相関係数はともに0.9前後になる。対して二卵性双生児のペアは音楽では0.5くらい、数学では0.1にも満たない。IQは一卵性双生児のペアで0.85くらいとかなり高く、二卵性双生児のペアは0.6。遺伝が強いが、環境要因もわりとある。意外にも遺伝が決定的要素になっていないのが美術で、一卵性双生児のペアで相関係数が0.6程度。このあたりの結果は簡易な表がAERAdotの記事にも載っているのだが、だいぶ話が単純化されているので詳しい話はちゃんと本を読んだほうがよいかも。で、ワタシが目をみはったのは次の事柄だ。
●知能におよぼす遺伝と環境の影響を、児童期、青年期、成人期初期でわけて比較すると、児童期には遺伝の影響と環境の影響が似たような程度だが、成人期初期になると圧倒的に遺伝の影響が大きくなり、環境の影響は薄まってゆく。著者はいう。

 人間は年齢とともに経験を重ねてゆくわけですから、環境の影響が大きくなっていきそうなものですが、実際は逆なのです。
 つまり、人間は年齢を重ねてさまざまな環境にさらされるうちに、遺伝的な素質が引き出されて、本来の自分自身になっていくようすが行動遺伝学からは示唆されます。

●年をとるとともに、私たちは本当の自分になる。年配者の姿は経験や地位によって作られているのではなく、生まれながらの自分が出てきただけかもしれない。そんな可能性を心に留めておく。♪ありのーままでー。

September 1, 2023

「デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本」(文春e-Books)

●なんと、この電子書籍は無料でゲットできるのだ、「デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本」(文春e-Books)。もちろん、スマホでもPCでもKindle専用リーダーでも読める。来年、スティーヴン・キングが作家デビュー50周年を迎えるということで、新作のプロモーションも兼ねて発行された模様。キング・ファンにもキング入門者にも便利なガイドブックになっており、しかも、ここでしか読めない短篇がひとつ収められている。「ローリー」と題された短篇で、これがなかなかよい。どういう話か、なにも知らないほうが楽しめると思うけど、差しさわりのない範囲でいえば「犬小説」。犬好きが読んでも問題ない内容とだけは言っておこう。
●あと、おもしろいなと思ったのは「一目でわかる、キング代表作マトリックス」という図。横軸が「エモい⇔怖い」、縦軸が「リアル⇔幻想と怪奇」になっていて、主要作品が座標平面に配置されている。たとえば第1象限のもっともリアルでもっとも怖いに置かれているのが「ミザリー」。座標の原点には「IT」が配置されている。納得。で、気がついたのだが、自分が好きなキング作品は、横軸で見ると「怖い」の最大部分に偏っており、縦軸で見ると「リアル」から「幻想と怪奇」まで偏りなく分布している。つまり、自分はホラー作家としてのキングに惹かれていることになるのだが、そんなつもりはなかったので驚く。たしかにキングは「モダンホラーの帝王」だけど、彼の魅力は「怖い」ところにあるのではぜんぜんないし、自分はホラーが特段好きではない。
●具体的に好きなキング作品ベスト5を挙げるとしたら、なんだろうか。「シャイニング」「キャリー」「ミザリー」「ニードフル・シングス」「呪われた町」あたりか。近作は読んでいないので、どうしても過去の名作ばかりになる。先日も書いたけど、「シャイニング」はキューブリックの映画よりキングの原作がオススメ。

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