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September 7, 2023

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康著/SB新書)

●これはだいぶ前に読んだ本なんだけど、先日ふとしたきっかけで思い出したので備忘録代わりに。「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康著/SB新書)という一冊。煽り気味の書名に抵抗を覚えるかもしれないが(ワタシ自身もSB新書から本を出させてもらってるのでナンだけど)、中身は行動遺伝学の本でたいへん興味深い。特に「なるほど」と膝を叩いたのは、人間のさまざまな能力や性格などについて、遺伝による影響と環境による影響を切り分けるために、一卵性双生児と二卵性双生児で相関を比較するという手法。一卵性双生児は100%、二卵性双生児は50%の遺伝子を共有している。1万組近くの双生児のデータを調査して、双生児のペアの学力やIQ、才能等について相関係数を算出している。
●極端に遺伝の影響が強いのが音楽や数学の能力で、一卵性双生児のペアの相関係数はともに0.9前後になる。対して二卵性双生児のペアは音楽では0.5くらい、数学では0.1にも満たない。IQは一卵性双生児のペアで0.85くらいとかなり高く、二卵性双生児のペアは0.6。遺伝が強いが、環境要因もわりとある。意外にも遺伝が決定的要素になっていないのが美術で、一卵性双生児のペアで相関係数が0.6程度。このあたりの結果は簡易な表がAERAdotの記事にも載っているのだが、だいぶ話が単純化されているので詳しい話はちゃんと本を読んだほうがよいかも。で、ワタシが目をみはったのは次の事柄だ。
●知能におよぼす遺伝と環境の影響を、児童期、青年期、成人期初期でわけて比較すると、児童期には遺伝の影響と環境の影響が似たような程度だが、成人期初期になると圧倒的に遺伝の影響が大きくなり、環境の影響は薄まってゆく。著者はいう。

 人間は年齢とともに経験を重ねてゆくわけですから、環境の影響が大きくなっていきそうなものですが、実際は逆なのです。
 つまり、人間は年齢を重ねてさまざまな環境にさらされるうちに、遺伝的な素質が引き出されて、本来の自分自身になっていくようすが行動遺伝学からは示唆されます。

●年をとるとともに、私たちは本当の自分になる。年配者の姿は経験や地位によって作られているのではなく、生まれながらの自分が出てきただけかもしれない。そんな可能性を心に留めておく。♪ありのーままでー。