●アンソニー・ホロヴィッツの新刊「マーブル館殺人事件」(山田蘭訳/創元推理文庫)を読んだ。アンソニー・ホロヴィッツ、なにを読んでもおもしろいので毎回感心するのだが、今回もまた見事な出来ばえ。ホロヴィッツの名にふさわしい(?)技巧の冴え。今回はカササギ殺人事件シリーズの第3弾で、主人公は編集者のスーザン・ライランド。今回も劇中劇ならぬ「小説中小説」の趣向がとられている。つまり、主人公が担当している本のなかで殺人事件が起きるのだが、どうやらこれは現実の世界で起きた不審死の謎ときになっているのではないかと主人公が考える。巧緻。メタミステリーとして秀逸であると同時に、編集者小説としても読んでいて楽しい。そういえば、今年の大河ドラマの「べらぼう」も編集者ドラマではないか。今、編集者が熱い!(強引)。
●実は今回、序盤はさすがのホロヴィッツも息切れしてきたんじゃないかと思ったんだけど、途中からがぜん話がおもしろくなってきて、さすがと唸らされた。主人公が50代半ばの女性という設定も効いていて、職場を失ってしまい、フリーランスになって奮闘している、そして……という展開がとてもよい。ミステリーとしては変化球だけど、職業人生小説としてはストレート。
●小ネタとして過去の名作をほうふつとさせる要素がいくつか仕込んである。刑務所の面会場面とか、気が利いている。
Books: 2025年10月アーカイブ
October 9, 2025
「マーブル館殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ)
October 2, 2025
「漫画 パガニーニ ~悪魔と呼ばれた超絶技巧ヴァイオリニスト」
●やまみちゆかさんの新刊「漫画 パガニーニ ~悪魔と呼ばれた超絶技巧ヴァイオリニスト」(浦久俊彦監修/ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス刊)を読む。著者のパガニーニ愛がひしひしと伝わってくる一冊で、パガニーニの生涯を知ることができると同時に、純粋にマンガとしておもしろい。逸話や伝説の多いパガニーニだからこそ、こういったしっかりした文献にもとづいて描かれたマンガが有効だと思う。シングルファーザーとして息子アキーレを育て上げた逸話にもグッと来るが、そのアキーレが成長して家庭を持ち子や孫たちに囲まれて暮らしたと知ると、妙にほっとする。
●で、もうひとつ、やまみちさんの著書の話題を。私が監修を仰せつかった「マンガでわかるクラシック音楽の歴史入門」(KADOKAWA)の重版が決まった。全出版界における最高に甘美な言葉、それは「重版」。憧れの言葉であり、近年なかなか聞けない言葉でもある。ああ、世の中のすべての本が重版されたらいいのに!(ムリ)。