●モーツァルトが父親に宛てて書いた手紙でぎょっとさせられるのは交響曲第31番「パリ」についての一節だろう。1778年、パリのコンセール・スピリチュエルでの初演について、有名な一節だと思うが、以下ザスローの「モーツァルト全作品事典」から引用。
「さて、いよいよシンフォニーが始まりました。……ちょうど第1楽章アレグロの真ん中に、たぶん受けるにちがいないとわかっていたパッサージュがありました。そこで聴衆はみんな夢中になって――たいへんな拍手喝采でした。――でも、ぼくはそれを書いているとき、どんな効果が生まれるか心得ていたので、最後にもう1度それを出しておきました。――そこでダ・カーポでした」
●この拍手の場所はアーノンクール説によれば65~73小節。え、ホントに? その直後の派手な部分じゃなくて? 場所については諸説あるようだが、なんにせよ「そこでダ・カーポでした」って一言に引っかかる。ダ・カーポなんてないから、冒頭主題が帰ってくることを指してるのか、あるいはアンコールとしてもう一度第1楽章を演奏したって意味?
●ともあれ、当時のパリの聴衆は演奏中であっても「いいね!」と思った場所で拍手喝采していたことは疑いようがない。コンサートが恐ろしくハイコンテクストな文化だったことを痛感する。そして、飴玉の包み紙をむく音で苦情が出る現在の東京とはずいぶん様子が違う。
●「ここ、いいね!」と思ったら、即座に拍手する「ピリオド聴法」の実践を提案したい!(ウソ)



●15日は準・メルクル&N響へ(NHKホール)。サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番(ダニエル・ミュラー・ショット)とラヴェルのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」(国立音楽大学の合唱)。ともに軽やかな快演。特にラヴェルは色彩豊かで、響きがやわらか。ほっとする。無伴奏合唱が歌う間奏曲の部分で、オケ側の照明を消して合唱だけを照らすという演出があったのがおもしろかった。準・メルクルの指揮は明快で、なんのけれんもないのに視覚的に快い。体操競技的というか。

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