September 3, 2002

「メメント」クリストファー・ノーラン

●「あれ……。オレ、今なにしにパソコンの前に座ったんだっけ?」。ってこと、ないっすか。あるある、10分前のことが思い出せないことが。しかし二六時中こうだったら病気である。
●つうわけで、最近観た映画の中でもっとも独創的だったのが、クリストファー・ノーラン監督&脚本の「メメント」。主人公は記憶障害の男で、記憶が約10分間しか保持できない。妻を目の前で殺され、その復讐を誓い犯人を探しているのだが、この「事件」がきっかけで記憶障害となった。事件以前のことは正常に記憶しているのだが、それ以後のことはなにをしても10分間で忘れてしまう。あれ、あんた誰だっけ、みたいに。
●だから主人公は目の前で起きたことで事件に関係することを、次々とメモを添えてポラロイドに収めている。事件のあらましは体にタトゥーを彫って、記録してある。「今、自分がやっているのは何か」「今、目の前で会っているのはだれか」、これを忘れたらメモを見る。
●で、この映画は特別な方法でストーリーを見せる。「今起きたこと」からスタートし、時系列を過去へ遡っていくのだ。A→B→Cという一連のシークエンスを、C→B→Aという順に並べるわけだ。一日とか一年の単位で過去へ遡行していくようなスタイルの映画はいくらでもあるが、「メメント」ではこれが分単位だったりする。このアイディアが秀逸。観客も先のシーンの記憶をしっかり保っておかないと、筋がわからなくなる。記憶障害の男を描くのに、こんなとんでもないやり方があるとは。
●が、この映画が傑作なのはこういう特別な語法を採用した実験的な作品だからではない。一部にしかウケないマニアックな独りよがりな映画ではなく、ちゃんとしたオチと普遍的なテーマを持っている。そのテーマはなにか。これをいってしまうと軽くネタバレしてしまうので、以下未見の方はご注意を。予備知識なしで観たほうが絶対に楽しい。
●解釈の余地はあるかもしれないが、フツーに考えると結末はこういうことを言っている。「人は記憶にしがみついて生きているようでいて、実のところ必要としているのは記憶ではなく物語である」。つまり、とても切ない人生の真理を描いているわけだ。この切なさゆえに「メメント」は断じてB級映画ではない。(2002/09/03)

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