October 3, 2002

奥田英朗 「最悪」「延長戦に入りました」

●文庫化された奥田英朗の「最悪」(講談社文庫)を読んだ。評判がよくて単行本刊行時からすごく気になっていたのだ。で、これが期待以上のおもしろさ。零細町工場の社長、恐喝とパチンコで食うチンピラ、冴えない日常を送るOLの三者三様のダメっぷりを描き、「ダメなときほどドツボにハマる」式に彼らが堕ちていく救いのないストーリー展開は、ディテールのリアリティゆえに秀逸。神は細部に宿るんすね。零細工場をやってる辛さなんて、どんな取材をしたらここまで書けるのかと思うくらい。ダメな人もそうでない人もまちがいなく共感できる傑作犯罪小説なんである。
●で、その勢いで、同じ奥田英朗の新刊書「延長戦に入りました」(幻冬舎)も読んでしまった。こちらは小説ではなくてスポーツ・エッセイなんだけど、視点がフツーではない。「ボブスレーの前から2番目の選手はなにをしているのか」みたいなところを突いてくる。これがもう猛烈に可笑しい。「冗談の通じる人には最良の爆笑本だ」みたいなことをあとがきで自分で言ってしまうような自己愛の強さに一瞬萎えてしまうが(実際冒頭のほうはもうひとつ)、途中からたしかに大爆笑させられてしまうので文句は言えない。これが「最悪」と同じ書き手によるものだとは到底思えないのだが、観察眼の鋭さっていう点では共通している。(10/03)

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