ドミノ・ピザ
May 24, 2007

ケネス・ブラナー監督の映画「魔笛」

「魔笛」のパパゲーノ。写真提供:東芝エンタテインメント
●7月14日より公開の映画「魔笛」を試写で。監督のケネス・ブラナーの記者会見にも顔を出した。
●えー、この映画「魔笛」、なんと、今どき珍しい本当のオペラ映画なんすよ。昔はオペラ映画っていくつもあったと思う。最近のDVDソフトみたいに劇場の公演をそのまま収録して映像ソフトにするんじゃなくて、全部セットを作りこんで映画としてオペラを撮るっていうやり方。そんなの現在じゃ予算的に「ありえない」ってことになるんだけど、それがありえたのがこの「魔笛」。しかも監督ケネス・ブラナーでメジャー感大あり。
●なので、これ、フツーに映画を見るつもりで劇場に行った人は大変(笑)。モーツァルトのオペラ「魔笛」を序曲からはじめて、最後のフィナーレまで基本的に一通り演奏するし、モーツァルトと無関係な音楽とか一切なし、そして登場人物は全員本物のオペラ歌手で、当人が歌っている(もちろん音声は別に録ってるけど)。たとえばザラストロ役はルネ・パーペ。映画の中でもルネ・パーペが演技してる(オペラだから当然なんだけど)。演奏はジェイムズ・コンロン指揮ヨーロッパ室内管弦楽団。ワタシたちクラシック音楽ファンには大変すんなりと受け入れられる映画なので、映画館ではとまどう非オペラ・ファンをぶっちぎって存分に楽しむべし。
●演出のコンセプトもちゃんとある。もともと「魔笛」というのは、いつの時代のどこの国ともわからない世界を舞台としている。ケネス・ブラナーはこれを第一次世界大戦中に読み替えた(こういうのもおなじみの手法っすね、オペラ者には)。このあたりの演出的な手腕も実に鮮やか。ただ昔のオペラ映画と違うのは、フツーの現代の映画としてCGなんかも使っちゃうところ。たとえば冒頭場面、第一次世界大戦の最前線が舞台なので、地平線の向こうまでずっと続く塹壕が画面に出てくる。これなんかはCGだから簡単に作れる映像で、劇場にはなくて映画館にはあるもの。
●映画館でモーツァルトの「魔笛」を楽しむってことでオッケー、オススメ。ただし2点だけ、フツーのオペラと違う点があるのでそれだけご注意を。1. 劇場で見るオペラと違って幕間に休憩は入らない。まあ映画館だからしょうがないんだけど、第1幕、第2幕とぶっ続けで最後まで行く。2時間19分。フィナーレの後、エンドクレジットのためにもう一度序曲を流すのは違和感あり。 2. 歌詞はドイツ語じゃなくて英語。わざわざあえて英語で歌っているのには理由がある。オペラの普及促進に努めるイギリスのピーター・ムーア財団が資金を提供しているから。この財団はシャンドス・レーベルなんかでも英語訳詞によるオペラ録音を推進していて、イギリスで広くオペラを楽しんでもらうには歌詞は英語であるべきというポリシーみたい。
●ちなみに監督のケネス・ブラナーは、特にオペラ・ファンというわけじゃなくて、この作品のためにモーツァルト漬けになったという人なので、今後劇場でオペラの演出に乗り出すってことはなさそう。

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