April 10, 2009

「ワルキューレ」@新国立劇場

揺り木馬●ふう、充足。またしてもワーグナーの音楽に圧倒されてしまった。なんて美しい音楽なんだろうか。そして、激しく愉快な「ワルキューレ」だった。再演でもあるし遠慮なくネタバレしちゃうので、これから初めて見る方は以降スルーを。予備知識なしのほうが断然楽しいので。
●前回の「ラインの黄金」と同様に、今回も神々の長ヴォータンは映写機を回している。映画監督が映画というフィルム内に完結したミニチュア世界を創り出すように、神様も「世界」を箱庭のように自在に創造する……が、この映画の編集は一筋縄では行かず、綻びだらけ。ヴォータンが片手に持つものは権力のシンボルたる長槍。その先端は矢印記号となって舞台の至るところに登場する。
●このヴォータン(ユッカ・ラジライネン)は神というよりは悩める父親、さらに言えば少しヲタっぽいお父さんっすよね。オタクは箱庭を作るのが大好き。映画制作とか鉄道模型とか同人誌とか。ウジウジしながら映写機を回してる感じのヴォータン。
●キース・ウォーナー演出は今回も饒舌。ブリュンヒルデ(ユディット・ネーメット)は子供用の揺り木馬に乗って登場。客席から笑いが漏れる。揺り木馬が奇抜っていうよりも、あの木馬にはブリュンヒルデ重すぎ。木馬は第3幕の岩山のシーンでも巨大化して出現する。こんなに大仕掛けで何事かと思うんだけど、巨大木馬はほんの少ししか使われない。あれは木馬(グラーネって書いてある。笑)が大きくなったというよりは、ブリュンヒルデが小さくなった、彼女の少女性、幼児性の表現と受け取ればいいんだろうか。
●最強に盛り上がるのは第3幕冒頭。おなじみ「ワルキューレの騎行」が鳴り響く。舞台はERっていうのかな、緊急救命室みたいな場所で、おそらく手術室でつながるであろうたくさんの扉から、次々とワルキューレたちが天馬ではなくストレッチャー(!)を転がしてやってくる。「ホヨトホー!」って歌いながら扉をガツンと蹴飛ばして出て行ったり、ストレッチャーに乗っかって滑ってみたりして無邪気。乙女たちはエプロンをつけた看護士さんなのだ。前幕でブリュンヒルデの持っていた赤い盾が十字形をしていたが、その盾はここでストレッチャーにくくりつけられて赤十字になっている。冴えてる!
●白粉を全身に塗った患者さんが次々運ばれてくる。彼らは地上で弊えた人間の英雄たちだ。英雄たちを手術室に送るとハイ、一丁アガリ。英雄はすっくり立ち上がって舞台奥への扉へと歩く。ドアの上の赤いランプにはWALHALL(ワルハラ)の白文字。来るべきラグナロクに備えて集められた戦士たちだ。ワルキューレたちのコスチュームがかわいい。
●この後、ヴォータンとブリュンヒルデの父娘涙の勘当シーンもすばらしい。これはキース・ウォーナー演出にぜんぜん限らないんだけど、「ラインの黄金」では天上界から地底界までの「世界の成り立ち」が描かれ説明されていたけど、一方「ワルキューレ」は家族の物語なんすよね。お父さんヴォータンがいて、お母さんフリッカがいて、娘ブリュンヒルデがいる3人家族なんだけど、ブリュンヒルデはヴォータンと地母神エルダの間の子なので、娘視点で見るとフリッカはイジワルな継母だ。「あたし、パパが本当はどうしたいか知ってるの、だから大好きなパパのためにあんなことしたのに。それなのにどうしてパパはあたしを罰するの!? そんなにあの人(フリッカね)のいうことが大事なの?」みたいな。お父さんは葛藤する。妻のいうことには逆らえないが、この娘は何よりも大切。
●しかもこのお父さん、人間女性との間にも子供を儲けてて、それが双子のジークムントとジークリンデだ。この双子兄妹が契りを結ぶんだから、神じゃなくても頭が痛い。次作以降、この兄妹の間に生まれた子ジークフリートが、父母の異母姉妹であるブリュンヒルデと結ばれるわけで、なんか叔父・叔母・従兄妹・祖父母あらゆる親戚用語フル活用しても家系図がよくわかんない罰当たり大家族が誕生している。もうお母さん知りませんから、お父さんどうにかしてください! で、神代は終焉するわけだが、それは来シーズン。
●最後の場面、ヴォータンのモノローグの間にいったん幕を閉じて巨大木馬はしまわれ、次に開くとブリュンヒルデはベッドの上に横たわっている。傍らに大きなめざまし時計、揺り木馬も再登場。またもブリュンヒルデは幼女なのか。ベッドの四辺から本物の炎が燃え上がる(おおっ)。娘は次にここを通った男にくれてやる。この炎はその男を勇者に限るための親心。神よりも自由な男がお前に求婚するのだ……。泣ける。
●「ラインの黄金」に続き劇場の大掛かりな舞台装置がフル活用されていて楽しかった。これだけできるんなら普段から……いやまあいいか。ジークリンデはマルティーナ・セラフィン。もっとも好評。フンディングはクルト・リドル。ベテランの貫禄。ジークムントはバイロイトでも同役を歌っているエンドリック・ヴォトリッヒ。声が出ず苦しそうだったが、あの筋肉ムキムキな体型はすごい。本物の戦士になれそうな歌手がいるなんて。ダン・エッティンガー指揮東京フィル。好演。「ラインの黄金」のときよりも強まっており、次作では最強に強まる予感と期待。

トラックバック(3)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.classicajapan.com/mtmt/m--toraba.cgi/1146

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」【ジークムント】エンドリック・ヴォトリッヒ【フン 続きを読む

3月の『ラインの黄金』に引き続き『ワルキューレ』の再演である。 続きを読む

<楽劇「ニーべルングの指環」第一夜> 2009年4月6日(月)14:00/新国立劇場 指揮/ダン・エッティンガー 東京フィルハーモニー交響楽団 演出/... 続きを読む

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「ボリビア 6-1 アルゼンチン」です。

次の記事は「春の上野」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ

国内盤は日本語で、輸入盤は欧文で検索。