ドミノ・ピザ
March 1, 2010

東京バレエ団「シルヴィア」

踊りながらどこまでも飛んでいける●東京バレエ団の「シルヴィア」へ。26日(金)東京文化会館。バレエはまるっきりの門外漢なのだが、後学のためにと思って足を運んでみた。すると、これが期待以上におもしろいんだな、見方がわかってないなりに。フレデリック・アシュトン振付、ドリーブ作曲、ベンジャミン・ポープ指揮東京ニューシティ管弦楽団。
●舞台があってピットがあってオケが入っていて物語があって、形態的にはオペラに近いんだけど、中身はぜんぜんちがう(そりゃそうだ)。幕が上がってパッと序曲みたいなのが始まるんすよ、で、こう音楽が「さあどうぞ」と来たときに、舞台の人は歌わないんすよ! 歌うんじゃなくて、その代わりに踊る!! いかにも歌ってくださいのところで踊る、この衝撃。そして登場人物もストーリーもあるけど、舞踊で進行していくからセリフがない、字幕もいらないという言語障壁レスな舞台。感動。えっ、そんなの当たり前すぎる? いや、これは正確じゃないな、踊るからすばらしいんじゃない。ずばり、美しいからすばらしい、人間が。人間離れして美しい人工的な人間以上のなにか。
●シルヴィア(ポリーナ・セミオノワ)とアミンタ(マルセロ・ゴメス)が美しいだけじゃなくて、舞台上に存在する人間ぜんぶが美しい。ワタシの知っている舞台というものとかなり違う(笑)。オペラ歌手にも見目麗しい人はいなくはないだろうけど、なんか比較の対象になりようがないというか、歌手をたとえに出すのはなんだから、このワタシだな、仮にワタシがバレエダンサーと同時に舞台に立ったとしよう。そのときの光景をたまたま通りかかった地球外生命体が観察したとしたら、おそらくワタシとダンサーたちは同種族の生命体とは認識されないはずだ。「あ、なんか一匹ブタみたいな生物が混じってるぜ」くらいに思われても文句は言えない。それほど違う。
●人類ってこんなに優美な動きができる種族だったのですね……と感動しつつ、ワタシはこう思わずにはいられなかった。彼ら彼女らは歌をうたえないのか! あのシルヴィアにイゾルデを歌わせ、アミンタにトリスタンを歌わせるというのは人類の見果てぬ夢なのかっ! ああ、もう遺伝子工学でも何でも使って視覚と聴覚を同時に美であふれさせる新型人類を誕生させてくれ。
●が、ムチャである、それは。のび太が泣いてドラえもんに懇願しても不可能なレベル。オペラが観たいし、すばらしい音楽を聴きたい、しかしバレエの美しさを目の当たりにすると、オペラの舞台が色褪せる。せめてオペラにバレエを入れよう。19世紀のオペラ座の聴衆がグランド・オペラに対してバレエ・シーンの挿入を求めたのは、こんな気分になったからなんだろうか。

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