ドミノ・ピザ
May 9, 2010

LFJ2010東京備忘録

lfj2010

●お祭りってのは終わった直後は「ああ、これからどうやって日常に戻るんでしょか」と放心するけど、二、三日も経つとあっという間に過去の思い出へとすっ飛んでいく。旅みたいに。
●で、LFJ2010東京備忘録、自分の記憶のためにも。
●今回の自分的テーマは「ホールAの逆襲」だった。5000人収容のホールAは音響面でも不利だし、アーティストとの距離も遠いから、ついチケットの確保に逡巡することもあるわけだが、終わってみれば結果的にもっとも強烈な忘れられない体験となったのはホールAの公演ばかり。コルボ指揮によるメンデルスゾーンのオラトリオ「パウロ」、ポゴレリチの常軌を逸したショパンの協奏曲第2番もホールA。オルガ・ペレチャツコの歌声を聴けたのもそう。
●「パウロ」みたいなオラトリオ公演字幕なしの場合、対訳を見るか見ないかは迷いどころで、なじみが薄い作品だから見たほうが確実に伝わるものは大きいけど、一方で客席でみんながペラペラめくって「筋を追う」状態ってどうなのかなって気もするわけだ。この公演は対訳を希望者にのみ300円で販売していた。希望者方式はいいかも、全員に配ると数千人がペラペラめくることになるから。ワタシは対訳があるかどうかわからなかったので、去年の芸大奏楽堂「パウロ」で配られた対訳を家から持参した。こっちは字が大きくて読みやすくて得した気分(笑)。そして、やはりパウロの音楽はすばらしかった。回心と殉教の物語は、非キリスト者のワタシの胸さえも打つ。イエスがサウロ(パウロ)に語りかけた後、「起きよ、光を放て!」 の壮麗な合唱が頂点を作り、一転して「目覚めよと呼ぶ声聞こえ」の敬虔なコラールへと続く場面では、客席5000人中2000人くらいが鳥肌を立てたんじゃないだろうか。南無~。
ポゴレリチは怪演。ゆっくりゆっくり歩いてステージに登場する。テンポは伸縮自在で全般には極端に遅く、強弱のコントラストは強烈で両極に偏っている。協奏曲なのによくここまでやりたい放題やるというか、聴いたことのないようなショパン、ていうかこれはショパンなのか。この曲の前にショパンの師エルスネルの交響曲ハ長調があって(シューベルト風)、それプラス協奏曲で1時間の枠が取ってあった。しかし1時間経ってもぜんぜんショパンは終わっていない。やっと終わったと思ったら、ポゴレリチは係員の制止も聞かずに、第2楽章のアンコールを始めた。このアンコールの途中で、もう終了時間を30分も超過している。ワタシはOTTAVAの生放送出演予定が入っていたので、やむを得ずそこで退出してしまったんだが、ほかに次の演奏会へと向かうお客さんも少なからずいた(あるいは次の公演の何曲かをあきらめた人も多かっただろう)。スケジュールのつまったLFJで、60分の公演が90分経っても終わらないなんて。でもまあ、そんなことがどうでもよくなるほど、ポゴレリチは特異な演奏を披露してくれたし、なんというか、この奔放さがルーティーン化されたお約束だったとしても、痛快な気分になれる。会場は沸き方はこれまでのLFJで見たことのないもの。なにしろ5000席ソールドアウトの公演でこうなんだから。
●今年のナントのLFJでのルイス・フェルナンド・ペレスのリサイタルを思い出した。予定されていた曲目が終わって、お客さんは手拍子で大盛り上がり、ペレスはアンコールに遺作のノクターン嬰ハ短調だったかなにを弾き始めた。すると係員のおばちゃんがすっ飛んできて、演奏を止めさせた。「もう時間がありません!」。客席から大ブーイングを浴びたけど、おばちゃんは平然としていた。次にポゴレリチを呼ぶ機会があったら、いっしょにあのナントのおばちゃんも招聘したほうがいいかもしれない。
●開場前のホールAで入場待ちするときの混雑度が例年より高かった気がする。
●今年はホールCに一度も足を運べなかった。ケオハネとピエルロ&リチェルカール・コンソートのヘンデル・オペラ・アリア集は猛烈に楽しかったはず。
●「暗がりのコンサート」はおもしろかった。舞台と客席の間についたてを立てて、「誰が弾いているか」を客席からは見えないようにする。そして曲ごとに演奏者が入れ替わる。曲目は当日発表。ぜんぶ終わった後で、はじめて演奏したピアニストが顔を見せる。ワタシが聴いた回ではケフェレックはじめ4名が登場した。
●最終日のプレス懇親会、いつもなら来年度のテーマが発表されるが、今回は発表にまでは至らず。つまり来年のナントのテーマは(これは2月からわかってたんだけど)「ポスト・ロマンティシズム」ということで、ブラームス、リスト、マーラー、R・シュトラウス、新ウィーン楽派等々、ルネ・マルタンから次々と作曲家の名前が挙がったんだが、東京のほうはこれをもとに検討中である、ただブラームスは登場する可能性が高そうだ、という話。マーラーのような大編成が必要で、なおかつLFJのフォーマットには収まらないものをどうするかが悩みどころだし、やるにしても「ポスト・ロマンティシズム」とか「後期ロマン派」みたいなカタい言葉をそのままテーマに入れるのもどうかということもあるかも。ブラームスは問題ないだろうけど(来場者の「取り上げてほしい作曲家」アンケートでも第1位だった)、これを後ろの時代にどこまで広げるのか。マーラー・イヤーだしマーラーまで期待したいっすけどね。
●丸の内・周辺エリアの関連イベントと合わせたのべ来場者数は80万7千9百人。前年より増えた。好天にも恵まれた。
●OTTAVAブースに毎日出演した。いろいろな方にご挨拶できた。
公式レポートはブログに加えて、実験的にTwitterもはじめてみた。
●自分用お土産を買い忘れた。

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