ドミノ・ピザ
March 25, 2011

水を飲む

●どうしようかなと思ったんだけど、少し騒動が落ち着いてきたようなので、後日なにかの参考になるかもしれないからウダウダと書くことにする、水の話。
●まず事実関係から。3月23日、葛飾区の金町浄水場で22日に採取した水から210ベクレル毎リットル(以下Bq/L)の放射性ヨウ素を検出したというニュースが流れた。国の基準値は300Bq/Lなのでこれを下回ってはいるが、乳児(0歳児)に関しては100Bq/Lとより低い基準があるので、これに引っかかる。だから同浄水場を利用する東京23区等では乳児に水道水を飲ませないようにという通知が出た。大人は問題ないけど、0歳児にはダメだよ、と。
●仕事で外出している間にそのニュースを知り、帰宅途中にスーパーに寄ってみると早くもペットボトルの水が売り切れている。情報の伝達速度は速い。そして家の近所の自動販売機では、年配女性一人が次々と硬貨を投入して水のペットボトルを連続購入中。ああ、その手があったのか……。漂う「出し抜いてやった」感は気のせい? いやまあ、孫が0歳児なのかもしれないか。というか、「0歳児に与えるな」といわれたら、1歳児の親だって3歳児の親だって子供に飲ませてはいけないと思うのが人情だろう。そして大人も飲みたくないと思うかもしれない。だって、たまたま測定したときの水の数値が210Bq/Lであったのなら、違う場所や違う時間で300Bq/Lを超えるヨウ素131が出てもおかしくないと想像が働くではないか。
●ふーむ、これはどうすべきかと少し悩んだ。ヨウ素131の半減期は8日間だから、仮に基準値を少し超えるくらいであれば、日数さえ経てば問題はない。しかし水道水はいかに塩素が入っているとはいえ、そう何日も汲み置きできるものだろうか。8日だとお腹壊さないかな。たとえば、セコいけど8日間じゃなくて、半減期の半分で4日間だったらどうなるだろう。その場合は1/2の1/2乗だから電卓叩くと0.71か。ということは400Bq/Lくらいまでだったら、4日間経てば基準値の300Bq/Lを下回るということであってるかな? 現状の210Bq/Lという数字は問題ないとして、この数値はどれくらいの幅で日々変動しうるものだろう……と迷いつつ、あれこれ眺めていたら、Twitterでこの日本の300Bq/Lという基準値は国際基準よりもずっと高いみたいな話が書かれていた。
●えっ、そうなの? この種の日本の基準は国際基準より厳しいのが通例だと思い込んでいたが。なんだかそれに関係していろんな話が流れてくる。で、ふとある記述について、数字の引き方に違和感を感じた。怪しい。これは一応、出典をあたっておくべきではないか。自分自身の安全にかかわることについて、不確かな孫引きなどに翻弄されたくない。で、あちこちネットを眺めていたら、やはり不案内な分野なので、それなりに労力を要し、時間を費やし、疲労してしまった。やれやれ。以下不備もあるだろうが、自分のために記しておく。
●経過を省いて結論としてたどり着いたところはこんな感じだ。まずIAEAの文書 IAEA Safety Standards を見ると、43ページ前後に放射性核種別の基準値が一覧になっている。そう、これは核種によって個別に規定されている値であって、一律に「水の基準値は**Bq/L」みたいな書き方にはならないんである(ベクレルは放射能の量を表す単位だから。生体への被曝の大きさを表すシーベルトとは違う種類の単位だ)。一覧からヨウ素131を探す。えーと、I-131は3×103Bq/Lと書いてある。つまり3,000Bq/Lだ。これは日本の基準の300Bq/Lより10倍高い。なんだ、じゃあ300Bq/Lだの210Bq/Lだのというのは3,000Bq/Lに比べれば意味のない違いじゃないか。これを裏付けるようにWHOのサイトにある Japan earthquake and tsunami Situation Report No. 13 には、13pの上部に It should also be noted that the Japanese guideline value is an order lower than the internationally agreed Operational Intervention Levels (OIL's) for I-131 (3,000 Bq/kg) と書かれていて、ヨウ素131に関して日本のガイドラインは国際的な基準より一桁下に定められているようである。であれば、210Bq/Lという数値にあわてることはないようだ。ただし、IAEAの文書にしてもWHOのにしても、基準値に相当する言葉に OIL という表現を用いている。知らない言葉なのだが、Operational Intervention Levelの略だという。これはこの数値に達したら放っておけないよ、という水準だろう。その水準の切迫度を正しく評価する知識は自分にはないと考え(ワタシは専門家ではないのだから)、安全側に見積もって、ひとまず国の300Bq/Lを自分自身のためのマイ基準として採用しておこう。
●で、これはこれとして、WHOのサイトを見ると、飲用に適した水についての文書が置いてある。Guidelines for drinking-water quality というものだが、こちらは幸いに日本語訳もある。「9.3 飲料水中の放射性核種のガイダンスレベル」の中の「表 9-3 飲料水中の放射性核種のガイダンスレベル」に、やはり放射性核種別の基準値が掲載されている(印刷ページ数でp203、PDFのページ数でp230)。ここでヨウ素131を探してみると、おや、10Bq/Lと書いてあるではないか。これはどういうことだろうか。さっき見たIAEAの文書には3,000Bq/Lとあり、日本の基準値は300Bq/Lとあり、WHOには10Bq/Lとある。よく見ると、この文書にはガイダンスレベルの算出式として GL=1DC/(hing・q)となっていて、qは「飲料水の年摂取量、730L/年と仮定」と定義されている。つまりこれは継続的に飲み続けるという前提の数値なのだ。一年間に730L摂取した場合の、いわば平時の基準。そして「これらは、環境中に放射性核種が放出されているような、緊急時で汚染を受けている水供給に適用されるものではない」「事故直後の1年間は、BSS(IAEA, 1996)並びにその他のWHOおよびIAEAの関連刊行物(WHO, 1988;IAEA, 1997, 1999)に記載されているように、食材に関しての一般的アクションレベルが適用される」と記されている。300Bq/Lとか3,000Bq/Lというのは緊急時の基準値と考えればよいのだろう。それと、もう一つ注意すべきは、このガイダンスレベルは「対数の値の平均を丸めたものである(算定値が3×10n以下および3×10n-1以上であれば10nに)」。つまり10Bq/Lと書かれているのは、3Bq/Lから30Bq/Lという範囲を指している。その一つ上の100Bq/Lは30Bq/Lから300Bq/Lの範囲だ。したがって載っている数値は1か10か100か1000か……といったようにオーダーで表現されるわけだ。こういった数字をつかまえて、たとえば「5Bq/Lと20Bq/Lは4倍違う!」みたいなことを言っても意味がない。ここでは5Bq/Lでも20Bq/Lでも同じ10Bq/Lに丸められる。10の何乗の水準なのかを気にすべき数値と解した。
●では、私たちが実際に口にする水に、ヨウ素131はどれくらい含まれているのか。私たちは直接浄水場の水を飲むわけではない。そこで「全国の水道の放射能濃度」を参照してみよう。これは蛇口から採取した水について文部科学省が発表している数値をグラフ化したものだ。見ての通り札幌とか名古屋とか、今回の原発事故とは無関係な地域の数値を見ると、ヨウ素131は一貫して0.1Bq/L未満と記録されている。新宿区は3/19に2.9Bq/L、3/23には26Bq/Lという数字が出ている。金町浄水場の210Bq/Lと比べてもさらに低いので、現時点で気にする必要はまったくなさそうだ。以上を考えると、今飲む分には210Bq/Lだろうが26Bq/Lだろうが、日本の基準でありマイ基準と定めた300Bq/Lと比べれば低いのでワタシは気にしない。だが、今後もしこの数値が一年経ってもこのままなら、WHO基準の10Bq/Lに引っかかることになる。あるいは今後さらに上昇してマイ基準を突破することもあるかもしれない。
●金町浄水場の数値と新宿区の数値がずいぶん違うが、水道局によれば家庭に届く水道水は途中の給水所で複数の浄水場からの水が混じる場合もあるという。たとえば武蔵野市の水道水は同市サイトによれば、約8割が市内の深井戸水で、残り2割も大半は朝霞浄水場系の水で金町浄水場系の水は全体の約2%にすぎない(直感的にも武蔵野市の水をなにもはるばる金町から採ってきてるとは思えないが)。そして朝霞浄水場と小作浄水場の検査では問題はなかった。実際に3月22日に武蔵野市が採取した水について、ヨウ素131は不検出と発表された。また、一日経って、金町浄水場も乳児でも飲めるレベルまでヨウ素131の数値が下がったと発表された。そんなわけで、長々と書いているが(ここまで読んだ読者はほとんどいないと思うが)都内に関してはこの話題は急速に忘れ去られるかもしれない。あるいは今後たとえ0Bq/Lまで数値が下がってもずっと「水道水は危険」と叫ばれ続けるかもしれないし、あるいは本当に危険な数字が今後出てしまうかもしれない。ともあれ、現時点ではワタシは普段通り水道水を摂取しようと腑に落ちた(だからといってこの国家的危機に気が休まるというものではないが)。ただし、「全国の水道の放射能濃度」については今後も一定期間注視しておこう。今、ワタシたちの未来はとても不確かだ。

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「西の代表戦、東の練習試合」です。

次の記事は「週末ノー・フットボール」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ