May 27, 2011

映画「プッチーニの愛人」(パオロ・ベンヴェヌーティ監督)

プッチーニの愛人
●プレス試写で映画「プッチーニの愛人」(パオロ・ベンヴェヌーティ監督)。いやあ、こんな映画だったとは。今年はクラシック音楽映画の当たり年で、これまでにも「ショパン 愛と哀しみの旋律」「ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路」「マーラー 君に捧げるアダージョ」をご紹介しているが、最後に真打ち登場といったところか。映画作品としての完成度という点では、4作で断トツだと思う。
●映画の題材となっているのは「ドーリア・マンフレーディ事件」。一般に知られる史実を簡単に振り返っておくと、オペラ「西部の娘」を作曲中に、プッチーニ家の女中ドーリア・マンフレーディが、プッチーニの妻エルヴィーラに夫との関係を疑われたことがきっかけで毒薬を飲んで自殺してしまうという悲劇的な事件である。嫉妬深いエルヴィーラはドーリアを執拗にいじめ抜き死へと追い込んだ。死後、検死によりドーリアの潔白が証明されたという……。
●まるでプッチーニのオペラの中の出来事のような話だ。ワタシは漠然とロマンス要素の多い映画を予想していたのだが、これが全然違っていた。なにしろこの映画、台詞というものがほとんどない! もっぱら映像で物語を描く。そして、その映像美が圧巻。景勝地トッレ・デル・ラーゴが美しいということももちろんあるが、自然の風景の美しさがそのまま美しいのではなく、一つ一つのカットが計算高くデザインされているという意味での美しさ。台詞がないだけではなく、音楽もごくわずか。物語性すら稀薄。その代わり、目を見張るような映像が次々とあらわれる。すばらしい。画面は4対3。
●なので、賢明にもプッチーニの名アリアが全編に流れる、みたいなことにはなっていない。その代わり、「西部の娘」を作曲中のプッチーニがピアノに向かっている場面はいくつもある。これがいいんだな。ピアノで弾かれる「西部の娘」は(物語が剥ぎとられると)ずいぶん斬新に響く。究極の人工物のような音楽と風光明媚なトッレ・デル・ラーゴが鮮やかな対比を作る。ちなみにプッチーニ役の人は本当にピアノが達者な人。役者じゃなくて本業は音楽家なんだとか。道理で。
●なお、この映画には余計な説明がない。プッチーニが「ミニーとジョンソンが……(ぶつぶつ)」とか独り言をつぶやくとき、それが「西部の娘」の登場人物の名前だということを見る側がわかってあげる方式。
●あ、あと最後にこの映画のいいところをもう一つ。ドーリア・マンフレーディがぜんぜん美少女じゃない。かわいくもない。むしろ、いい子なのに見ていると無性にイジメたくなるタイプの女の子。よもやエルヴィーラの気持ちに共感できようとは(笑)。いるよね、こういうイジメ誘発型タイプの子。慧眼。

「プッチーニの愛人」/6月18日(土)より東京・シネマート新宿、7月2日(土)より大阪・シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー/配給:エスピーオー/宣伝:マジックアワー/原題:Puccini e la fanciulla/photo © Arsenali Medicei S.r.l.2008

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