June 21, 2011

ダニエル・ハーディング指揮新日本フィル、定期演奏会&チャリティコンサートUST生中継

●ダニエル・ハーディングは私たちにとって特別な指揮者になってしまった。新日本フィル Music Partner of NJP就任披露演奏会が3月11日に設定されていたという巡りあわせ。あの日、予定されていたマーラーの交響曲第5番は会場にたどり着くことが出来たきわめて少数の聴衆を前に演奏されたという。翌日以降の演奏会は中止され(しばらくの間、東京から演奏会が消えた)、ハーディングは4日後に帰国した。で、今月。いまだに来日をキャンセルするアーティストもいる中で、ハーディングは予定通り来日し、しかも定期演奏会に加えてマーラーの交響曲第5番のチャリティ・コンサートおよび特別演奏会を開いてくれた。すでに一足先にマーラー・チェンバー・オーケストラの指揮者として来日しているので、一ヶ月くらい滞在することになると思う。インタビューでは「ガーディアン紙の編集長を通じて、この分野で最も信頼する科学者から話を聞くことができました。にわか放射線スペシャリストがあふれかえる今の世界の中で信頼に足るソースを得て判断することが大切だ」と語っている。そういえばメトロポリタン・オペラはコロンビア大学メディカル・センターの放射線医療の専門家を招いて、来日メンバーの不安を払拭したと語っていたっけ。
●で、ハーディング/新日フィルの演奏会、ワタシは先週末にブルックナーの交響曲第8番を聴いた(すみだトリフォニーホール)。マーラーの5番に比べると、これは「らしくない」組み合わせ。しかし最初にハーディングが登場した瞬間からもう客席はわきあがる歓迎と尊敬の気持ちを抑えきれないという雰囲気で、すばらしいコンサートになった。重厚というよりは清新かつ端整なブルックナーで、もしかすると受け入れがたいと感じる人もいるかと思ったんだけど、終演後も大いに盛り上がっていた(最後、曲が終わった瞬間にピタッと客席に静寂の瞬間が訪れた。静かに終わるわけじゃないのに)。
●で、昨日のマーラーの5番はUSTREAMで生中継された。こちらは1200人程度が視聴していただろうか。平日夜のこの時間帯であることを考えると盛況だったのでは。USTなので参考程度にと思いながら聴いていたが、思わず引き込まれてしまう名演奏。鮮烈で濃厚、細部までアイディア豊か。いや、ブルックナーも悪くなかったけど、やっぱりハーディングはマーラーが似合う。オケも本当に立派で、世界中の人に聴いてほしいと思ったくらい。客席の反応もブルックナーの日をはるかに超えて、一般参賀もあり、センセーショナルな成功だった。しかも終演してすぐに、ハーディングは募金箱を持ってホール出口のそばに立った(そんな場面まで中継された)。切れ目なく募金が続く。311以来、すべての面で「男前」なんだな、ハーディングは。
●で、思い出すんだけど、3月10日にハーディングのMusic Partner of NJP就任記者発表会が行なわれたんですよね。ここでも記事にした。発表会に先立ってマーラーの5番はリハーサルが公開されたので、ワタシはすごくそれを楽しんで聴いた、翌日なにが起きるかも知らずに。で、その様子をワタシは3月11日のお昼ごろにここに上げたわけだ。その数時間後に大地震が起きて、ブログの更新どころではなくなり、3日間ほどずっと自分で撮ったハーディングの写真がこのページの一番上に上げっぱなしになった。だからハーディングのマーラー5番というと、あのときの果てしもなく暗い気分、一晩中緊急地震速報が鳴り続けて一睡もできなかった夜のこと、これから自分たちの生活や仕事はどうなるのか、果たして普通の日常が戻ってくるのか、食べ物や水は滞りなくお店に並んでくれるのか、社会秩序は維持されるのかと、ありとあらゆる不安に苛まれた頃の気分をまざまざと思い出す。そんなこともあって、どうしてもマーラー5番の日は足を運ぶ気になれなかったんだけど、このUSTを見たことでいくらか音楽と地震の悪い結びつきに対して記憶を上書きすることができた気がする。その意味でも、今回のUSTREAM生中継には本当に感謝している。

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