ドミノ・ピザ
July 12, 2011

「ラヴェル その素顔と音楽論」その2 ~ モテないラヴェル

ラヴェル その素顔と音楽論●先日ご紹介した「ラヴェル その素顔と音楽論」(マニュエル・ロザンタール著/マルセル・マルナ編/春秋社)について、さらに。古い本で品切中のようだが、ならばなおさら。
●「ボレロ」についてラヴェルとトスカニーニが対決したという話はあちこちで目にしたことがあるだろう。トスカニーニのテンポが速すぎたので、ラヴェルがなぜそんなテンポで振るのかと問いただすと、トスカニーニは横柄に「あなたのテンポで演奏したら決して成功しません」と答えた、というようなエピソード。著者ロザンタールによれば、それは「でっちあげ」なんである。事実はむしろ逆で、ロザンタールがラヴェルに「もっとゆっくり演奏してほしいと言ったのですか」と尋ねると、ラヴェルは「もちろん違うよ。あの晩、トスカニーニは、このうえもなくすばらしい手さばきで、『ボレロ』を演奏したんだからね。あんなふうに演奏するなんて誰にもできない」と大指揮者を絶賛したという。
●いや、だからといって通説がまちがいだ、けしからん、とは思わないっすよ。ロザンタールが真実を書いているとどうしてわかる?(ワタシは信じるけど)。大作曲家について、身近な人々の証言(さらにいえば本人の証言)が無条件に信じられることなんてまれなこと。「真実はどうか」なんて探ってもしょうがなく、むしろ「なぜその話をみんなが選択的に信じるのか?」のほうがおもしろい。
ラヴェル●この本が教えてくれることはたくさんある。「ボレロ」で彼の世界的なキャリアがはじまったというのだが、それはつまり人生最後の10年の話であって、おおむね彼は名声や栄華という点ではずいぶん控え目な人生を生きていたということになる。彼は主流派とはいえなかった。経済的にも成功していたとはいいがたい(大ヒットしたオペラもないし、演奏家として大活躍していたともいえないので)。1928年にアメリカ・ツアーを成功させて、「初めてお金を銀行に預けにいく」といって有頂天になったラヴェルに対し、著者は「無理もないだろう。フランスでは、ラヴェルはろくに収入がなかったのだから!」と書いている。数年後、ラヴェルを病魔が襲い、彼の体の自由が利かなくなってから、著者はラヴェルに代わって署名をしていたが、ラヴェルが受け取った金額は当時の生活費にほど遠かった、おそらく弟の援助で暮らしていたのだろう、生活はつましかった、というのだ。ワタシが抱いていた「ダンディで、クールなラヴェル」像からはかなり遠い姿だ。
●しかもラヴェルはあんなにおシャレさんなのに(身だしなみも、作品も)、女性にはモテてなかったというのも衝撃的だ。というか、ゲイみたいな印象も受けるが、それも違うらしい。プロフェッショナルな女性とは大っぴらに、そして盛んに楽しんでいた。が、「ラヴェルが女性との愛情という面ではぱっとせず、さみしい生涯を送ったことは認めなければならない」。本当だろうか。なぜモテない? 謎だ。

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