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November 21, 2011

ピエール=ロラン・エマールのリサイタル

●トッパンホールで開かれた「ル・プロジェ・エマール2011」から、二つのリサイタルに足を運んだ。
●まずは18日。これは強烈な体験だった。「リスト生誕200年を記念して」と題されているが、普通のリサイタルとはぜんぜん違う。前半はリスト「悲しみのゴンドラ」、ワーグナーのピアノ・ソナタ 変イ長調「ヴェーゼンドンク夫人のためのアルバム」、リスト「灰色の雲」、ベルクのピアノ・ソナタ、リスト「不運!」、スクリャービンのピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」。これを「曲間の拍手なしで」とリクエストして弾いた。無調の領域へと揺らぎながら、あたかも一つの大作を弾くかのように音楽の大きな流れを作り出す。拍手がないおかげで儀式的なムードも生まれ、とても幸福な時間だった。休憩の後はリストのソナタ一曲のみ。前半の作品群を聴いた後に聴くと、まるで知らない作品のように新鮮に聞こえる。振幅の大きな表現で制御不能な妖気を漂わせつつ儀式を締めくくった。アンコール大会なし。
●20日は問題作(?)「コラージュ─モンタージュ 2011」。古典から現代までさまざまな作品を寄木細工のように組合せるということで、プログラム詳細は当日知った。リミックス的なアイディア、すばらしいじゃないか。当日、演目を見てそのおもしろさにガッツポーズ。曲目は細かくてとても書き出せないが、全体を5部に分けて、それぞれにテーマを持たせる。たとえば第1部は「プレリュード・エレメンタリー」として、リゲティのムジカ・リチェルカータ第1番でスタートしてバルトークのミクロコスモス第124番スタッカート、シェーンベルクの6つのピアノ曲Op19第2曲……と進みブーレーズのノタシオン第4番、第8番と続く。
●第3部「メロディ&メロディ」も印象的。シュトックハウゼンの「ティアクライス」(黄道十二宮)からの各曲とシューベルトのレントラー他の舞曲を交互に演奏する。第4部「カプリッチョ」では作品の交配はさらに一段と進み、断片や引用を組み合わせる。ベートーヴェンの6つのバガテルOp119の第6曲とスカルラッティのソナタを交互に行ったり来たりして見せたり、ケージの「7つの俳諧」、シューマン「謝肉祭」に接続したり……。最後の第5部「告別の鐘」では、ムソルグスキー「展覧会の絵」から「キエフの大門」の途中で終わってしまうアンチ・クライマックスが用意されていた。客席に笑い。
●もっとも、これはリサイタルというよりレクチャーコンサートの雰囲気。各部でエマールがマイクを持ってひと通り解説をはさみ、それが通訳され、そのままの流れで演奏に入るという趣向で、トークの比率がかなり高い。リサイタル・モードではなくレクチャー・モードで鍵盤に向かうんすよね。そこをどう捉えるか。趣向は最高なんだけど、実践としては完成形までにまだ道のりがある気もする。言葉で語ることと音楽を演奏すること、種を明かすことと鮮やかなマジックを見せること、それを同時に求める難しさ、というか。もちろん、そうはいっても並のリサイタルでは体験できない興奮があったことはたしか。

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