ドミノ・ピザ
December 7, 2011

ドヴォルザーク「ルサルカ」@新国立劇場

ルサルカ●新国立劇場でオペラ「ルサルカ」。この作品、初めて観たが、大変すばらしかった。ドヴォルザークの交響曲に感じるのと同じ種類の親しみやすさがある、美しいメロディがこれでもかというくらい詰め込まれていて。チェコ語でなければもっとひんぱんに上演されてもいいような気がする。
●この「ルサルカ」っていう水の精(というか幽霊)、知ってたすか? 直接の出典はスラヴ神話ということでワタシはなじみがなくて今回気がついたんだけど、要は「水の精」ものというか、ヨーロッパのあちこちに残っている美しい女性が水からあらわれて男を虜にするタイプの伝説で、どうやら「妖精ヴィッリ」とか「ジゼル」の物語と同源のようである。ただ、この種の物語でドヴォルザークのオペラに採用されていないのは「幽霊女が若い男を踊り死にさせる」というイベント。「若くて美しい女が男を死ぬまで踊らせる」という説話構造は、男の人生についての普遍的なメタファーとして機能する。しかしこれは「水の精」を男の視点から描くから出てくるモチーフなわけだ。ドヴォルザークのオペラは物語を女の視点から描く。つまり人間に恋した水の精ルサルカの悲恋になる。毒気は抜ける。
●で、演出のポール・カランは、さらに「ルサルカ」を少女の夢として描いた。最近、オペラは夢オチが多いっすよね。舞台上でベッドを見たら夢オチと思え。だから悲恋ですらない。だれも死なないし。物語としては限りなく毒気が抜けて、薄まっている。わざわざ「夢オチ」にする意味があるのなら教えてほしい。と、このアイディアに関してはまったく共感できないんだけど、プロダクション自体の質は大変高かった。舞台も美しいし、人の動きも工夫されている。この曲って、オーケストラだけが鳴っている時間がけっこうあるんすよね。その間、歌手たちの演技にボケッとした隙間が発生しないのは吉。ただ少しセンスが古臭いとは思うかな。でも総体としてはこの劇場で見られるもっとも良質な舞台だと思う。ノルウェー・オペラからの借り物なんだっけ? レンタル上等!
●オケがとてもよかった。ヤロスラフ・キズリンク指揮東フィル。ワタシが聴いた東フィルのなかでは出色の出来。しなやかでやわらかい自然描写と活発なスラヴ風の部分の対比がうまく表現されていた。「ルサルカ」って森の描写がよく音で出てくるんすよね……これはたまたま先日METライブビューイングで「ジークフリート」を観たせいかな、「ルサルカ」の森は「ジークフリート」の森につながってる気がする。3人の森の精もラインの乙女を連想させるし。
●あー、思いつくままに書いてしまうけど、ルサルカが水の精から人間に変わると、なんか少女たちがルサルカの足をせっせと拭いたりするじゃないすか。あれは水の精には足がないからなんすよね。下半身は魚だから。なのでルサルカはクツを履くときに、履き方がわからない、みたいな演技をする。
●ルサルカでもヴィリでもウンディーネでもニンフでもマーメイドでもサッキュバスでもセイレーンでもみんな男を魅了する女の化け物なわけだ。本来キモい。でも美しい。キモ美しいってのが最強なんだな。ルサルカ役のオルガ・グリャコヴァは視覚的にもほっそりしてて美しくて、でも歌うと少し怖かったりして(?)ルサルカ役にはぴったりかも。王子はペーター・ベルガー。甘くて美声。イェジババはビルギット・レンメルト。
●休憩時間にやたら知人に会った。そういえば平日マチネにもかかわらず、客席にいつもより若い人が多かった気がする。1階の後ろと両脇は空いていたが、それ以外はほとんど埋まっていた。

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