August 19, 2013

ゾンビとわたし その28 映画「ワールド・ウォーZ」

●お盆。地上が帰省ラッシュとなるように、あの世からこの世へと帰ってくるためのご先祖様ハイウェイも大混雑となる。そんな地上に死者たちがあふれかえるこの季節に映画を観るとすれば、もちろんそれはゾンビ映画しかない。ブラッド・ピット主演というメジャー感に反して、史上最多登場ゾンビ数記録を更新するような特盛映画、それが「ワールド・ウォーZ」(マーク・フォースター監督)である。
●この作品の特徴を一言でいえば、「家族みんなで楽しめるゾンビ映画」といったところだろうか。エグくない。目を背けることなく、安心して鑑賞できるのがすばらしい。グロいゾンビの時代は終わったのだ。シリアスだが、ぷっと吹き出す場面もある。ゾンビのタイプとしては近年流行の「疾走するゾンビ」で、瞬発力や脚力、腕力など一段と生前よりパワーアップした闘争的ゾンビ像が描かれている。フィラデルフィアの街のど真ん中に感染者があらわれる。猛ダッシュして飛びついてガブッ! 噛まれると12秒でゾンビになる。そいつがまた猛ダッシュしてガブッ! 噛まれたヤツがガブッ! さらにガブッ! ガブッ! ガブッ! 大都会では感染者がきわめて短時間の間に増殖するというプロセスが明瞭に描かれる。
●ハイライトシーンはゾンビの大群の壁よじ登りシーン。世界のほとんどがゾンビ禍に覆われる中、イスラエルは分離壁によって感染者の侵入を防いだ。しかしその高い壁に向かってゾンビの大群が押し寄せてくる。彼らは壁を登れない。だが、なんということか。あまりの大群であるため、押し寄せたゾンビたちの群れの上にゾンビが折り重なり、さらにまたその上にゾンビがよじ登り……といった具合に、砂山のようにゾンビが積み上がり、ついに頂上のゾンビが壁に到達するのだ。その蠢く大群を描写したシーンだけでも、この作品はゾンビ映画史に名を残すだろう。一本の矢は容易に折れるが、三本の矢が束になれば折れない。一人のゾンビでは登れない壁も、何千何万ものゾンビが束になれば乗り越えられる。毛利元就も納得のゾンビ・モブシーンである。

●なお、以前に原作も紹介しているが、映画との関連はかなり薄い。原作より映画のほうをオススメしたい。
●ところでやっぱりアメリカってクルマ社会なんだなと思ったのが、冒頭フィラデルフィアのパニック観戦シーン。ああいう感じになるのね、と。これが東京だったら、ああはならない。きっとシーンはこんなふうに始まる。ラッシュ時の山手線、原宿駅で感染者が乗り込んでくる。電車はぎゅうぎゅう詰めだ。ゾンビは車内でダッシュする必要なんかない。というか、ダッシュできない。隙間がまったくない。だから目の前の人間をガブッと咬む。咬まれたヤツはすぐにゾンビになる。そして目の前をガブッ。こうしてゾンビたちは一歩も走ることも歩くこともなく、ひたすら静的に、しかし急速に感染が進む。そして電車は渋谷に到着する。もう乗車してるのは全員ゾンビだ。停車してドアが開いた瞬間に、電車の中からどっとゾンビがあふれ出て、ホームで整列して待っている人々にかぶりつく。逃げ場なしのゾンビ入れ食い状態。渋谷の駅はあっという間にゾンビで埋め尽くされる。彼らが駅からあふれ、スクランブル交差点に向かう。ちょうど信号が青になって、向こうから歩いてくる人々に、こちら側から一斉にゾンビが襲いかかる……。
●どう考えても東京での感染速度は世界最速級になるはず。自家用ヘリコプターでもないかぎり、逃げ場はない。

>> 不定期終末連載「ゾンビと私

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