February 14, 2014

ナントのラ・フォル・ジュルネ2014 その2

ナントLFJの「セントラルパーク」
●(承前)記憶が薄れる前に、ナントのラ・フォル・ジュルネ2014について、その2。今回のナントは「アメリカ」がテーマだったので、会場中央の赤いステージではブラスバンドがバーンスタインの「ウェストサイドストーリー」を演奏したり、黒人霊歌が歌われたりしていた。また一番大きな大ホール(1900席)ではラフマニノフ、ガーシュウィン、バーンスタインあたりが主役。で、中ホールから会議室系の小さな場所ではアイヴズから現代の作曲家まで非常に多彩なアメリカの音楽がとりあげられていた。以下、自分の聴いたものについて備忘録的に。
●ベレゾフスキーの独奏でリス&ウラル・フィルのガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」とラフマニノフのピアノ協奏曲第4番。ガーシュウィンから漂うラフマニノフ風味のロマンティシズム。若いピアニスト、ヨーゼフ・モーグとリス&ウラル・フィルのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番とジョン・アダムズ「ザ・チェアマンダンス」。ヨーゼフ・モーグが圧倒的にすばらしい。この人、リサイタルでショパン/ゴドフスキやアール・ワイルドを演目に載せていたのでバリバリとメカニックで押すタイプかと思ったらぜんぜんそうではなく、詩情豊かで細部まで磨かれたラフマニノフだった。
●深夜まで演奏されたメシアン「峡谷から星々へ」は、エッセール指揮ポワトゥ・シャラント、ヌーブルジェのピアノ、根本雄伯のホルン。前回のエントリーに書いたように、作品になじみのないお客さんたちがどんどん途中で帰ってしまったのだが、最後まで聴いたお客はみんな儀式を体験したかのように感慨に浸ってはず。ときどき単独で聴ける「恒星の呼び声」も全曲のなかにあると一段とホルン・ソロという特異さが引き立つ。
●ヴォックス・クラマンティスのケージ、デイヴィッド・ラング他のプログラム。精緻なヴォーカル・アンサンブル。ケージは「18回目の春を迎えた陽気な未亡人」と「花」。無伴奏の曲ばかりなので、ピアノは外側を叩くために置かれていたのであった。ラングの曲は静謐な癒しの音楽で、感動する人はする、キモいと思う人にはキモい。浸り系。
●ラファエル・セヴェールのクラリネット、ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮オーヴェルニュ室内管弦楽団でコープランドのクラリネット協奏曲。セヴェールは若くてイケメンで猛烈にうまくて、まぶしい。フィリップ・グラスの「ファサード」も。楽しい。
●フローラン・ボファールのピアノでジョージ・アンタイルの「飛行機ソナタ」「野蛮なソナタ」、ケージの「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」抜粋、ヘンリー・カウエルの「バンシー」「マノノーンの潮流」。これはもう痛快。その筋の名作一挙公開みたいなプログラムで、通常のピアノとプリペアドピアノと2台を部屋(会議室みたいな場所)に入れて演奏。お客さんの多くはアメリカ20世紀音楽になじみが薄い人たちなので、カウエルで内部奏法が始まると客席に笑いが起きるし、ケージでは首を伸ばして「なにが起きてるの?」みたいに興味津々。これもやはり途中で帰るお客さんがいたけど、最後は大ウケで拍手喝采。
Lieu Unique ナントLFJ
●昨年から加わった新しい会場、Lieu Unique。ここは使われなくなっていたLUのビスケット工場をアート、音楽、演劇、ダンスなどのために活用しようと改装されたナントの新しいアートスペース。レストランや書店も入っていて、若者たちが集まる場所になっているのだとか。LFJ本体の会場シテ・デ・コングレからは歩いてすぐ。といってもいったん外に出なければいけないので、離れ小島的な感じもあるが。
●Lieu Uniqueの会場は500席と120席の2つ。500席で聴いたのは、モディリアーニ弦楽四重奏団によるバーバーの弦楽のためのアダージョ(オリジナルの四重奏版)とライヒの「ディファレント・トレインズ」。が、ライヒはPAのクォリティが低すぎて苦行に。演奏前にせっかく演奏者自ら作品について解説してくれたのに。120席のほうはまるで学校の教室みたいな雰囲気で、若いピアニスト、マタン・ポラトがアイヴズのピアノ・ソナタ第2番「コンコード」を弾いてくれた。これは大変すばらしい。作品の伝道師となるべく青筋を立てて格闘するのではなく、自然体で名作に向き合うといった雰囲気。
●最終日はルネ・マルタン会見などもあったので、シテ・デ・コングレにとどまっていくつか。アレクサンダー・ギンジンのジョージ・クラム「マクロコスモス」抜粋が強烈だった。特殊奏法をふんだんに用い、ときには巨体のピアニストが叫び声をあげて(そういう曲なので)鍵盤に向かう姿はインパクト大。ドン引きのお客さんもいる一方で、隣に座っていた老婦人は興奮のあまりピアニストに抱きつかんばかりの勢いでブラボーを叫んでいた。あとはピアニストのジャン・デュベ。ガーシュウィン/ダリーの「パリのアメリカ人」他。鮮やかなテクニックに舌を巻く。ファイナル・コンサートは前の公演が1時間ほど押したこともあり(そんなことがありうるのがナント)、開演が遅れまくった。翌朝4時起きで空港に向かう予定だったので途中退出したけど、小曽根真&トレヴィノ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアによるガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」が会場を大いに盛りあげていた。

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