September 1, 2014

シュトックハウゼン「歴年」雅楽版&洋楽版

●サントリー芸術財団サマーフェスティバル2014で、シュトックハウゼンの「歴年」を雅楽版(8/28)と洋楽版(8/30)の2種類の上演で。1977年に国立劇場雅楽公演で初演された作品で、雅楽の楽器のために書かれているが、同時に欧米での再演も考慮して同じスコアが洋楽器(シンセサイザーも含むんだけど)でも演奏できるように、作曲者によって指定されている。なので雅楽版と洋楽版がある。洋楽版「歴年」は巨大オペラ「リヒト(光)」の原型となり、後に「火曜日」第一幕に組み入れられることになった。雅楽版は77年以来の再演であり、洋楽版は日本初演となる。ってことで、OK?
●「歴年」がどんな作品かを軽く説明するだけで2000字くらいにはなってしまいそうだが、それは避けるとして、舞台の様子を極力簡潔に記しておくと、舞台後方に大きな4ケタの数字が表示されている。この数字ははじまりから不定の速度で数値を増やしていき、最後に1977に到達する。ただし数値は本当に一つずつ増えて年号を示しているのではなく、疑似的なカウントにすぎない。舞台奥に雅楽あるいは洋楽器のアンサンブルが位置して、その手前では大きく書かれた4ケタの年号の数字上で、一の位、十の位、百の位、千の位の舞人が踊る。各々の舞人と楽器群には対応関係がある。一の位はすばやく、千の位はきわめてゆっくりと動いて、時の流れを表現する。途中で寸劇が入り、4つの誘惑が舞人の足を止め、音楽と時の流れを遮る。誘惑するのは花束、ソーセージ、電動バイク、若い女性。少女があらわれて客席に励ましの(?)拍手を求めたり、シュトックハウゼンの肖像が描かれた大きな一千万円札があらわれたりする。
●寸劇部分がどんなテイストのものかまったく知らずに雅楽版に足を運んだのだが、これがなんとドリフターズとスネークマンショーの中間くらいのベタさとユルさによる昭和調ギャグ。スクリーン上の謎イラストと合わせてノスタルジア全開で、鳴っている音楽とに激しい乖離を感じる……と言いたいところなんだけど、これら演出部分も多くはシュトックハウゼンの指示によるもので、作品に組み込まれているのだとか。寸劇があまりに古びているからといって、演出で容易に現代風にバージョンアップできるものでもなさそう。
●主たる舞台装置である四ケタの疑似年号は、一の位も十の位も1から7までの数字しかない。7の次に0が来て繰り上がるなら8進法だが、0がなくて1が来る。これは桁上がりしていない、つまり同じところを堂々巡りしているだけ、と読める。百の位と千の位も連動していなくて、百の位が9まで来ると、同時に千の位も1に到達していて、桁上がりがない。「歴年」という題に反して、実は時は流れていない。だから寸劇も70年代そのままなのかも。今日、ソーセージやバイクが「誘惑」という意味との結びつきを失っているとしても。
●この寸劇が作品の根幹をなすものとは思えないんだけど、あまりにインパクトが強すぎて、雅楽版ではそればかりが気になってしまった。洋楽版では同じ寸劇が洋装というか洋風になって出てくるのだが、そちらは二度目なのでもう少し音を聴こうという気持ちにはなれた。4ケタの数に表現されるように4つの時間軸が異なる速度で進み、それが聴覚的にも視覚的にも多層的に併行して進むというアイディア、器楽アンサンブルが生み出す精緻なテクスチャー、歌手によるミヒャエルとルシファーの対話など、70年代寸劇以外の部分ではまた聴きたいと思わされる。でも寸劇は(←くどい)。

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