December 30, 2014

「その女アレックス」(ピエール・ルメートル著/文春文庫)

その女アレックス●これはなかなかおもしろそうだと思って買ったものの、しばらく積読状態にしてたら、「このミステリーがすごい!」第1位に選ばれて書店にドーンと平積みになっていた、「その女アレックス」(ピエール・ルメートル著/文春文庫)。あわてて読む(笑)。フランス産ミステリー。評判通りのおもしろさ。
●若い女性がサイコ野郎に監禁されて、小さな檻に閉じ込められてしまう、男はどうやらとても残忍な方法で女性の命を奪おうとしている……というシチュエーションで物語ははじまるが、ストーリー展開は意外性に満ち、なんども予想を裏切る。で、筋立てはかなり緻密に作られていてそれだけで十分に楽しめるものなんだけど、むしろ警察官たちの人物造形など、サスペンス以外の部分に味わい深さを感じる。特に、主役となる警部が極端な小男と設定されているのがすごい。辣腕捜査官として、こんなにふさわしくない特質があるだろうか。でも、この不器用で頑固な男が実にいいんだ。共感を呼ぶ。
●作者は作品中でいくつかシンメトリックな構図を描いていて、たとえば警官側の4人のチームは、小男の警部に巨漢の上司がいて、部下には金持ちのイケメンと冴えないしみったれがいる。こういった設定も効いている。
こちら葛飾区亀有公園前派出所●しかし資産家のボンボンみたいな金持ち警官ってどうなのよ……と思ったが、はっと気づいた。それって「こち亀」の中川じゃん! ってことはこの小男の警部は「両さん」じゃないの。そう思ったら、もうどうやってもこの登場人物が両さんと中川にしか思えなくなる。いくら事件はパリで起きてるんだって自分に言い聞かせても、頭のなかには勝手に葛飾区亀有公園前派出所が浮かんでくる。実はピエール・ルメートルは「こち亀」の愛読者なんじゃないの?

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