February 24, 2015

「ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録」(秋山和慶、冨沢佐一著/アルテスパブリッシング)

ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録●読む前からこれはおもしろいに決まっていると確信できる一冊だったが、ほんの少しだけと思ってページをめくりはじめたら、結局ほとんど一気読みに。「ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録」(秋山和慶、冨沢佐一著/アルテスパブリッシング)。ていねいな取材がもとになっていて、文章はきわめて読みやすい。そしてなにより秋山さんの人柄(とてつもなく偉い人なのに偉そうにしない)が滲み出ていて、読後感がいい。
●ヴァンクーヴァー交響楽団での大成功など(今でも本宅はヴァンクーヴァーにあるそう)、全体としては美しい話が多いんだけど、やっぱりそうではない部分が強く印象に残る。東響の専属指揮者に就任して(「当時、東響は高給で知られていました」とある)、1964年にデビューを果たすんだけど、その一か月半後にTBSなどから契約が打ち切られて、楽団の解散が発表されてしまう。楽団長の入水自殺という悲劇があるが、そこから楽団の自主再建のために奔走する。仕事をとりまくってオケを3つに分けて活動したとか、一年間ほぼ一人で指揮して白髪がみるみる広がったとか、給料を出せずに楽団員が次々と去ったとか、淡々と書かれているけど迫力がある。
●「(楽団員に対して)指揮者はていねいに受け答えしなくてはならない。けっして怒ったり、どなったりしないようにしているし、できない奏者を名指しで攻撃するようなこともしないよう、自ら戒めてきた」という秋山さんの人物像はすごく納得できるものだけど、人間的な暖かさの一方で指揮者としての厳しさもあちこちにあらわれている。ヴァンクーヴァー交響楽団では「何回指摘してもダメな場合、替えるしかない」と30人ほどを入れ替えたことや、近年でも中部フィルの改革にあたって楽団員の再オーディションを敢行してユニオンと対立したことなども記されている。多くの点で北米の音楽環境を恵まれているとしながらも、強すぎるユニオンに対しては手厳しい。
●この書名も秀逸。「ところで、きょう指揮したのは?」という書名を見て、ワタシは「あ、これは秋山さんのことを知らない外国人音楽家かだれかが、公演に感銘を受けてその日の指揮者はだれなのかと尋ねているんだな」と解した。でも違ってた。これは秋山さんが理想の指揮を語る一節で、指揮者が目立たずオケがすばらしい演奏をすることを挙げ、「ああ、いい演奏だった。ところで今日の指揮者はだれだったっけ」と言われるくらいがよい、と語ったことに由来している。

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「黒スパイク論」です。

次の記事は「ティーレマン指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団でシュトラウス&ブルックナー」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ