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January 14, 2016

「未成年」(イアン・マキューアン著/新潮社)

●昨年末に刊行されたイアン・マキューアンの「未成年」(新潮社)をようやく読む。もうマキューアンの近作はどれを読んでも舌を巻くほどの傑作ばかりといった感があるが、今作でも期待を裏切らない。主人公はまもなく60歳になろうとする著名な女性裁判官。マキューアン作品では世界的作曲家だったりノーベル賞物理学者だったり、しばしば社会的地位の高い成功者が主人公に設定されるが、今回もそう。ただしそれが女性であり、老いを感じているというところがなんともいえない味わい深さを生み出している。強さと弱さ、真摯さとアイロニー、倫理と逸脱等々、いろんなテーマが短めの長篇のなかに詰まっている。
●信仰によって輸血を拒む少年の審判が主人公のもとに用いられるというのがストーリーの大筋なのだが、その一方で主人公の家庭では夫が年甲斐もなくすっとぼけたことを言い出して家を出ていく事件が起きる。憂鬱な家庭内カオスを抱えつつ職業上の難問にてきぱきとほとんど事務的かつ真摯に向き合う主人公の描写が秀逸。そんなものだろうと思うもの。
●ただしマキューアン自身も60代後半になったこともあってか、肩の力は抜けてきていると思う。長篇としてはやや短めで、大風呂敷を広げるような話にはなっていない。最近のインタビューで、今後は中篇が多くなる、もしかしたら短篇も書くかも、なんて語っているのだとか。この「未成年」もこれから書かれる作品を予告しているのかも。もしこれまでのマキューアンのベストはなにかと問われたら、「贖罪」とか「ソーラー」あたりの決定的な傑作で悩むと思うけど、この「未成年」にはそれらとはちがった良さがある。