September 20, 2016

「ふしぎの国のアリス」 (1951) (ウォルト・ディズニー・プロダクション)

●ディズニー・アニメの古典的名作「ふしぎの国のアリス」。1951年製作ということですでに60年以上の月日が経っている。今見てもシュールなテイストは健在。というか、先日の「ズートピア」など昨今の磨き抜かれたディズニー作品を見るに、こんな「ふしぎの国のアリス」はもう作れないのかもしれない。今の時代には冗漫だし(それがナンセンスの味わいにつながっているんだけど)、ハートの女王が口癖のように「首をはねよ!」と連発するのは問題がありそう。
●で、これってミュージカル・スタイルのアニメーションなんすよね。いろんな歌が出てくるが、そのひとつが「お誕生日じゃない日の歌」。マッドハッターと三月うさぎたちのお茶会で(原作での表現は「きちがいお茶会」)、「お誕生日じゃない日、おめでとう!」と歌われる。お誕生日は365日の1日しかないけど、お誕生日じゃない日を祝えば365日の364日を祝っていられるという大変おめでたい発想で、みんながじゃんじゃんとお茶を飲むのに、どうしてもアリスだけは一口も飲めないという可笑しなシーン。
●しかし、吹き替え版では「お誕生日じゃない日、おめでとう」が「なんでもない日、おめでとう」になっており、これが昨年、ディズニーのTwitter公式アカウントで騒ぎを起こした。「なんでもない日、おめでとう」を投稿したのが8月9日だったため、長崎に原爆を落とした日に「なんでもない日、おめでとう」はないだろうという反応が起きた(経緯はこちらに)。
●そもそも大人の世界に「なんでもない日」は存在しない。365日のどの一日をとっても、かならず世界のどこかで悲しい一日として記憶されているだろうし、どこかでは祝うべき一日として記憶されているだろう。ディズニーの公式アカウントが「なんでもない日、おめでとう」と投稿した際には、アリスの絵柄とともに A Very Merry Unbirthday to You! の一言が添えてあった。原語にあった中立的でナンセンスな味わいが、訳語の選択によって要らないニュアンスを帯びてしまった。
●「誕生日」のニュアンスを生かして Unbirthdayを訳すとしたら? 「非誕生日、おめでとう!」だろうか。ルイス・キャロル的な活字の世界では悪くないと思うんだが、アニメには似つかわしくない気がする。聞き取りにくいし、ミュージカル仕立ての場合は口の動きともある程度同期が必要だろうから、訳語選択の制約が厳しそう。ふと、Unbirthdayを検索してみたら、Weblio英和辞典で立項されていて「何でもない日」の訳語があてられていた。もともとはルイス・キャロルが「鏡の国のアリス」で編み出した造語ということのようであるが(つまり「不思議の国のアリス」ではない。これを「きちがいお茶会」の場面に持ってきたのはディズニーの発案っぽい)、ディズニー映画の訳語が定訳となっているということか。

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