December 9, 2016

ドキュメンタリー「ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿」(ルカ・ルチーニ監督)

ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿●ちょうどスカラ座の新シーズンが開幕したところだが、12月23日より公開されるドキュメンタリー映画「ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿」を一足先に拝見。監督はルカ・ルチーニ。偉大な歌手たち、指揮者、劇場関係者から裏方まで、さまざまな人々たちの証言によって、スカラ座の栄光が語られている。一応、柱となる筋立てとして、2014/15シーズンの開幕公演「フィデリオ」に向けて準備に追われる人々が描かれているものの、構成は自由で、むしろ過去のアーカイブ映像のほうが目をひくんじゃないだろうか。
●若き日のムーティとかアバドの姿とか、今見るとぐっと来る。なにしろスカラ座なので映像や写真に出てくる人たちがすごい。バレンボイム、ドミンゴ、パヴァロッティ、カラス、カラヤン、ヌレエフ、トスカニーニ……等々。東京への引っ越し公演の際の映像などもあって、興味深い。少し可笑しいのは、再現映像で過去の人物の証言(というか一人語り)が入ってくるところ。リコルディの奥さんが出てきて、旦那がスカラ座の地下室に眠る楽譜を二束三文で買い取って一儲けしたのよ、みたいなことをしゃべる。
●ドキュメンタリーの主題は、いかにスカラ座が特別な劇場であるか、ということ。スカラ座の光と闇を描き出すようなものではなく、徹底して光の部分が描かれる。なので、セレモニーに招かれた来賓の祝辞みたいな証言だってある。フレデリック・ワイズマン監督の「パリ・オペラ座のすべて」なんかとは、ぜんぜん違うテイストなので、ご覧になる方はそのつもりで。そして、なにげないインタビューを映す際の照明など、映像美に対するこだわりを感じる。時間は102分。
ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿 カラヤン●ミレッラ・フレーニが出てきて、カラヤン指揮ゼッフィレッリ演出の「ボエーム」で歌ったときの昔話をする。「カラヤンが舞台にあがってきて、泣きながら私にキスしてこう言ったの。僕が涙を流したのは母が死んだとき以来だよ、って」。美しい思い出を語るとき、人はどういう表情をするものなのか、たくさん観察できる。

2016年12月23日(金・祝)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー / 配給:コムストック・グループ / photo © Rai Com – Skira Classica – ARTE France – Camera Lucida Productions 2015

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