March 15, 2017

新国立劇場「ルチア」

●14日は新国立劇場「ルチア」新制作、初日へ。さすがに力の入ったプロダクションで、歌、オーケストラ、舞台美術、すべてがひたすら美しい「ルチア」。オルガ・ペレチャッコ=マリオッティのルチアも期待通りのすばらしさだが、アルトゥール・ルチンスキー(エンリーコ)とイスマエル・ジョルディ(エドガルド)の男性陣も遜色ない。イスマエル・ジョルディの甘く軽やかな声はこの役にぴったり。指揮のジャンパオロ・ビザンティは東フィルから角の取れた柔らかで端麗なサウンドを引き出して、決して力まず吼えず。歌手にやさしい。
●演出はジャン=ルイ・グリンダ。先日の会見で演出コンセプトとしてロマン主義、すなわち自然に対する畏怖の念を挙げていたが、舞台美術も絵画的で格調高い。というか、ちゃんと場面が転換してくれるということが吉。異なる場面をセットを変えずに表現する節約感(自分内用語でバリューセット)に耐えなくて済むという時点でうれしい。まだこれから公演が続くので、ネタバレは避けておくけど、いくつか目立つ独自性もあり。ルチアの着替えや、幕切れの一工夫は効果的なのでは。「狂乱の場」、ペレチャッコは過度に鬼気迫るふうではなく、むしろ清澄なくらいなのが吉。グラス・ハーモニカ(ヴェロフォン)は終演後にもピット内で喝采を受けていた。
●で、作品だ。ドニゼッティの「ルチア」って、本当にオペラ的なオペラというか、オペラのお約束に深く立脚した作品で、自分のような「オペラは見たままに理解しよう」派からはなかなか手強い相手。なにより、ルチアはなぜ死んだのか。どうしてみんなも「この人はもうすぐ死ぬよ」って了解できるのか。それがわからない。狂ったのはいいとして、医学的に死因はなんなの? あんたが死ぬからエドガルドまで。みんなそんなホイホイと死ぬなとオペラの登場人物全般に対して言いたい。で、それでもここのところで自分なりに筋の通った答えを用意するなら、「幽霊に憑かれたから」なのかな、と解している。これって幽霊譚なんすよね。幽霊に憑かれて絶命するのは、ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」からスティーヴン・キング「シャイニング」に至るまでの伝統だし。ルチアはすでに第1幕で亡霊を見たって語っているので、もうこの時点で憑かれているのかも。ウォルター・スコットの原作を日本語で読むことはできないのだろうか。

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