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July 25, 2017

「血を繋げる。 勝利の本質を知る、アントラーズの真髄」(鈴木満著/幻冬舎)

●ぐうの音も出ない。なぜ鹿島アントラーズはあんなに強いのかと、他チームのファンがずっと訝しんでいた、その答えがここに。「血を繋げる。 勝利の本質を知る、アントラーズの真髄」(鈴木満著/幻冬舎)。著者はアントラーズの強化部長、実質的にGMというべきポジションで、住友金属工業時代からの生え抜き。Jリーグがプロ化してジーコがやってきた草創期からずっとチームを育て上げてきた人物なんである。鹿島って、Jリーグで唯一ずっとタイトルを獲り続けているじゃないすか。選手の世代交代が異様に上手い。若い有望な選手がきちんと育つ。監督が代わっても「勝者のメンタリティ」を失わない。いったんチームが弱くなって沈んでも、またすぐに優勝争いをするチームに戻る。どうしてそんなになんでもうまくいくのか。ウチのダメダメなチームが予算を浪費している間に、鹿島はいつもタイトルを争っている。
●で、この本を読んで痛感したのは、組織って人と人の結びつきなんだなということ。鹿島は(というか著者は)すごく人を大切にしている。選手を切るときにもできる限り移籍先を探してあげるとか、引退後のキャリアのことまで親身になって考えるとか、監督をころころ代えないとか。戦力外になった選手をポンと放り出さずに、移籍先を探してあげて「あのクラブが欲しがっている」と告げる形に持っていこうとするなんて、なんという親心。選手の親御さんや先生にはスカウトが「うちでは出番がないので、今、移籍先を探しています」と伝える。こういうチームの姿勢が伝わるから、若い有望選手が来てくれるんだろう。すでにほかのクラブに移籍してしまった選手であっても、鹿島のクラブハウスを訪れた際には温かく迎えるという文化にも驚き。まさに「鹿島ファミリー」。極めつけは、「解任した監督にも愛される」(トニーニョ・セレーゾのこと)。辞めた人にも鹿島愛がある。強化部長といえば人を切る仕事でもあるわけだけど、それでいてここまで人望があるとは。
●「人を取るまでが3割、取ってからが7割」「派閥を作らない」「立場の弱い選手に気を配る」など、金言というか、他チームのファンにとっては耳が痛いというか。うらやましすぎる。あまりに悔しいので、なにか負け惜しみをひとつでも言うとしたら、「この人が引退したら鹿島はどうなるの?」くらいのものか。