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October 4, 2017

劇団民藝「33の変奏曲」(モイゼス・カウフマン作、丹野郁弓演出)

●3日は紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで劇団民藝の「33の変奏曲」(モイゼス・カウフマン作、丹野郁弓演出)。以前、当欄でご紹介したベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」を題材とした演劇で、現在上演中(10月8日まで)。思った以上に「ディアベリ変奏曲」に踏み込んだ作品で、なるほど、これは音楽ファンにとって興味をひく舞台になっている。
●同じ舞台でふたつの時代の出来事が並行して描かれるという趣向。ひとつは現代のニューヨーク。音楽学者キャサリン(樫山文枝)は「なぜベートーヴェンがディアベリのあのような凡庸な主題をもとに大変奏曲を書いたのか」を研究している。キャサリンは難病にかかっており、残された時間のなかで研究を進めるべくドイツへと渡り、「ディアベリ変奏曲」のスケッチに触れる。もう一方の時間軸は19世紀前半のウィーンで、ベートーヴェン(西川明)と秘書シントラー(みやざこ夏穂)、楽譜出版者のディアベリ(小杉勇二)の物語が描かれる。ベートーヴェンもまた耳疾におかされ、聴力が完全に失われるなかで後期の傑作群に取り組む。
●舞台中央の奥にピアノが置かれて、実際にここでストーリーに応じて「ディアベリ変奏曲」からのあちこちが演奏されるのがいい。キャサリンが「ディアベリ変奏曲」のスケッチを見る場面では、映像で映し出された手稿譜を実際に演奏して音にしてくれるのが効果抜群。ベートーヴェンとディアベリのやりとりでは「会話帳」も出てくる。「会話帳」に書くのは会話の相手であって、ベートーヴェン本人は基本的に書かないという一方向性も、劇のなかでさらりと言及される。ディアベリ変奏曲が当初多数の作曲家に一曲ずつの変奏を依頼した作品であったこともしっかりとストーリーに組み込まれていて、とてもよくできている。
●あまりに音楽史寄りだとそれだけでは一般性を欠いてしまうのだろうか、現代の側ではキャサリンとその娘クララ(桜井明美)と恋人の看護師(大中耀洋)のストーリーが進み、病や死がテーマとなっているのだが、そこにどれくらい興味と共感を持てるかで見る人を選びそう。いちばんの見どころは第1幕の終わりで、過去のウィーンの登場人物、現代のドイツの登場人物、現代のニューヨークの登場人物がそれぞれに別個に会話をしながらも、一部のセリフが重なったり、ずれたりして、あたかも「会話の対位法」みたいな離れ技を披露する。変奏曲の終盤に訪れるフーガのように。

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