November 22, 2017

METライブビューイング「ノルマ」新演出

METライブビューイングの2017/18シーズンが開幕。シーズン最初の作品はベッリーニの「ノルマ」。デイヴィッド・マクヴィカーの新演出で、指揮はカルロ・リッツィ。ソンドラ・ラドヴァノフスキーが題名役、ジョイス・ディドナートがアダルジーザ役初挑戦、ジョセフ・カレーヤがポッリオーネを歌う。ここ数シーズンに自分が見たMETライブビューイングのなかでは一二を争う見ごたえのある舞台だった。
●なんといっても作品が持つ力が圧倒的。イタリア・オペラで愛と憎しみのアンビバレンスについてこれほど核心を突いた作品をほかに知らない。非常に大きくて重いテーマを扱った作品なんだけど、それにふさわしい奥行きの感じられる脚本があって、緻密で詩情豊かな音楽が添えられている。これを強力な歌手陣が歌えば、悲劇が悲劇として成立する。
●オペラって、しばしば悲劇が喜劇になっちゃうじゃないすか。この「ノルマ」だって、危険なところはあるんすよ。第1幕でポッリオーネがノルマとアダルジーザに鉢合わせする場面があるじゃないすか。つまり、二股をかけていたダメ男が、相手の女性ふたりにバッタリと会ってしまい、ぜんぶバレるという最悪最低に落ち着かない場面。当然修羅場になるわけなんだけど、あの鉢合わせするところで客席から少し笑いが漏れていたと思う。ワタシも笑った。ところが、そのままだとダメ男とダメ女のドタバタ劇になりかねないのが、なんと、第2幕では崇高な愛の形を描いた重厚な悲劇になっている! ズシリと心に響く結末でありつつ、観る人がいろんな解釈ができて、さまざまな可能性について思いを巡らさずにはいられない。つまり名作。もちろん、ベッリーニの音楽が傑出しているからなんだけど。
●METって五面舞台なんすね。舞台がエレベーターみたいな感じでガーッって上にあがると、下から別の舞台が出てくるんすよ! そうやって地上の世界と地下みたいな世界(大木の根っこの中?)、巫女であるノルマと母であり女であるノルマを描き分ける。大仕掛けだけど、スペクタクルのための仕掛けではなくドラマ上の必然が感じられるのが吉。ていうか、羨望。

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