January 12, 2018

新国立劇場2018/2019シーズンランナップ説明会&記者懇談会

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●11日、新国立劇場2018/2019シーズンランナップ説明会&記者懇談会が開催。オペラ、舞踊、演劇全ジャンルについての説明会がCリハーサル室で1時間半にわたって行われ(全ジャンルだとプレス側がこんなに大勢になるんだという大盛況ぶり)、その後各ジャンルごとに分かれて芸術監督を囲んでの記者懇談会へという流れ。写真は左より小川絵梨子次期演劇芸術監督、大野和士次期オペラ芸術監督、大原永子舞踊芸術監督。普段は縁がない演劇やバレエのお話も聞けたのが吉。
●で、オペラ。大野新体制への期待が猛烈に高まった。新シーズンのラインナップをぱっと見た感じだとそこまで大きく変わった感は伝わらないかもしれないが、それは過半がレパートリー公演になるというオペラ劇場の必然があるわけで、説明会を聞くと、これまでの不満が一気に解消されるんじゃないかというくらいに期待を持てた。
●大野監督が掲げた主な目標は5つ。まずはレパートリーの拡充。年間3公演だった新演出を4公演に増やす。そして、新国立劇場の公演が世界初演出になるプロダクションを制作し、現在まさに世界のオペラ界を席巻しているような旬の演出家を起用する。また、これまでにも20世紀のすぐれた作品を上演してきてはいるが(ヤナーチェクとかブリテンとかコルンゴルトとか)、海外の劇場からのレンタルの関係で一回限りの上演で元の劇場に帰ってしまうことが多かった。それを上演権を買う形にして、くりかえし再演できるようにしたい、という話。これは大歓迎。近年の演目でいえばヤナーチェク「イェヌーファ」みたいな圧倒的な舞台がそれっきりというのはもったいなさすぎたので。
●2番目は日本人作曲家委嘱作品シリーズの開始。1シーズンおきに日本人作曲家に新作オペラを委嘱する。で、その制作過程では、従来になかったような作曲家と台本作家、演出家、芸術監督の間での協議を重ねる。そして海外の劇場で上演されるような日本のオペラが生まれてくることを目指す。特に大野さんは新作オペラで作曲家と台本作家が意見を戦わせるようなプロセスが必須と見ているようで、モーツァルトとダ・ポンテ、ヴェルディとピアーヴェ、シュトラウスとホフマンスタールのような共同作業を実現したいそう。まずは最初のシーズンで西村朗作曲、石川淳原作の新作「紫苑物語」が初演されるのだが、すでに作曲家と大野監督、台本の佐々木幹郎、さらには演出の笈田ヨシ(!)とで喧々諤々の議論が重ねられているのだとか。
●3番目は、ダブルビル(2本立て)新制作と、バロック・オペラの新制作を1年おきに行うこと。1年目のダブルビルはプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」とツェムリンスキーの「フィレンツェの悲劇」。フィレンツェという街をキーワードにふたつの作品が並べられている。これは楽しみっすよね。ダブルビルのいいところは演目の多様性が実現するところ。定番の組合せも悪くはないけど、こういった新鮮な組合せを期待したいもの。以前、METライブビューイングでチャイコフスキー「イオランタ」&バルトーク「青ひげ公の城」のダブル・ビルという斬新なアイディアが披露されていたのを思い出す。組合せ次第で古典作品に新しいコンテクストが生まれるのがダブルビルの魅力。それからバロック・オペラについては大劇場で上演し、ピットには東フィルや東響が入るそう。バロック・アンサンブルを招く手もありそうなものだが、大野さんのイメージではモダン楽器のオーケストラがガット弦を用いたり、バロック・ティンパニを用いたりするような形で、アイヴァー・ボルトン指揮でバイエルン国立歌劇場が上演していたようなバロック・オペラのスタイルが念頭にある模様。
●4番目は旬の演出家と歌手をリアルタイムで届けたいということ。新シーズン最初の「魔笛」はウィリアム・ケントリッジ、「紫苑物語」は笈田ヨシ、「トゥーランドット」はスペインの演出家集団「フーラ・デルス・バウス」の芸術監督アレックス・オリエといったように。歌手については国際的な歌手に加えて、重要な役にも優秀な日本人歌手を起用したいとも。
●5番目は積極的な他劇場とのコラボレーション。海外の歌劇場との共同制作を通して、日本初のオペラ新演出が世界に広まるという新時代を切り開きたい、と。
●以上、5つの目標が掲げられていたのだが、全体としていえば、これらがレパートリーの多様化につながることがいちばんうれしい。定番の名作も劇場には必須だけど、やはり税金を注ぎこむ国立の劇場であるからには、なにかを「開拓する」という機能を担ってほしいもの。
●余談。大野さんはずっと前に、オペラの台本を書いてほしいとカズオ・イシグロに手紙を書いたことがあるのだとか。丁重なお断りの返事が返ってきたそうだけど、惜しいなー。せめて既存作品をオペラ化することはできないものだろうか。日本の劇場がやるなら「わたしたちが孤児だったころ」でどうだろう。

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