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June 11, 2018

「村上さんのところ」 (村上春樹著/新潮文庫)

●しばらく前にネット上で大反響を呼んだ村上春樹のなんでも相談室(?)「村上さんのところ」(新潮文庫)、文庫になったのを機に読む。世界中から集まった質問相談約3万7千通のなかから、サイトで回答されたのは約3700通で、この一冊に収められたのは473通。さすがに厳選されているだけあって、世の中にはいろんな質問があるというか、いろんな人がいるものだと感心するばかり。もちろん、回答はそれぞれに興味深い。基本、真摯な姿勢があり、ユーモアがある。企画趣旨からいって当然なんだけど、これって「ファンの集い」みたいな感じの本なんすよね。だからファンじゃなかったらぜんぜん共感できないノリだってあるわけなんだけど、でもいくつかすごく印象的な回答があって、何か所もページの片隅を折ってしまった。
●たとえば、なんだけど。なかなか思いが伝わらないという広報のお仕事の方から、メッセージを伝える極意を問われて、「親切心です。それ以外にありません。親切心をフルに使ってください。それが文章を書く極意です」。あと講演のコツについて「原稿をそっくり暗記する」とあったのも、すごく印象に残る。「だから手間もかかるし、すごく疲れます」。やっぱり話すのって書くのよりもずっと準備に時間がかかるものなのだと得心。
●こういうのって、しばしば質問者側のほうが、回答者が見たことも聞いたこともない世界を生きているわけなんだけど、どんな深い悩みにも決して薄っぺらな答えが帰ってこない。