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October 19, 2018

「戦時の音楽」(レベッカ・マカーイ著/新潮社)

●レベッカ・マカーイの短篇集「戦時の音楽」(新潮社)を読む。ぜんぶで17篇が収められており、基本的にそれぞれ独立した内容ながら、戦争によって翻弄される人々と音楽家たちが共通するテーマになっている。一篇ずつ時間をかけて読んだが、どれもすごく巧緻で、味わい深い。特に印象に残ったのは、冒頭の「これ以上ひどい思い」。ルーマニア出身で戦禍を逃れて生き延びた9本指の老ヴァイオリニストを、その弟子の息子でアメリカに生まれた少年の視点で描く。少年の自意識と、周囲の大人が見る少年像の微妙な行き違いがとてもいい。やるせないユーモアも特徴で、特に「ブリーフケース」は秀逸。理不尽に政治犯として捕らえられたシェフが、行進する囚人の列から逃げおおせる。すると、囚人の数がひとり減っていることに気づいた兵士たちは、通りかかりの大学教授を捕まえて、問答無用でコートやシャツをはぎ取って囚人の列に加えて去ってしまう。残されたシェフは、教授のコートやブリーフケースを手にして、その日から教授になりすまして偽りの人生を生きる。奇想天外なんだけど、ある種の真実味が含まれている。
●著者は1978年、アメリカ生まれ。父がハンガリー動乱でアメリカに亡命したハンガリー人言語学者、祖母はハンガリーで著名な女優、小説家だったそう。この短篇集を読むと、まるで著者本人が父母や祖父母の代の東欧を生き抜いてきたかのような印象を受ける。
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●ONTOMOの10月特集「ハロウィン」に、「ハロウィンに聴く! オペラに登場する怖い魔女トップ3」を寄稿。よろしければ、どぞ。