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January 4, 2019

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●昨年、「このミス」をはじめとする年末ミステリランキングで4冠を達成したという「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)を読む。抜群におもしろい。主人公は女性編集者で、担当する売れっ子ミステリ小説が書いた最新作のタイトルが「カササギ殺人事件」。つまり「カササギ殺人事件」というのは小説内小説のタイトルでもあって、これがアガサ・クリスティばりの古典的なミステリ小説になっている。この小説内小説だけでも十分にひとつの作品として成立しているのだが、その外側にある主人公の世界でも事件が起きる。相似形の入れ子構造になった二重のミステリ。そのどちら側でも鮮やかな謎解きがあり、しかも登場人物たちが実に味わい深い。
●いまどきクラシックなスタイルの「物語」を綴ろうと思ったら、ただまっすぐに書くことができないのは小説も音楽も同じ。物語をそのまま差し出すという恥ずかしさにだれも耐えられないので、物語についての物語にするといったメタフィクション化が必要になる。そこで、あまりにクラシックなスタイルのミステリを小説内小説に落とし込んでいるわけだが、その外側もやはりクラシックなミステリになっている。加えて、これは「書くという行為について書く」小説でもある。登場人物の売れっ子ミステリ作家の人物像がいかにも「こじらせてしまった売れっ子」で、その歪みっぷりが痛々しくも生々しい。作家と編集者の関係は、そのまま創る人とファンの関係でもある。編集者が作品のファンだけど作家のことは嫌っているという設定がすごく効いている。