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June 13, 2019

「平成日本サッカー 秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた」 (小倉純二著/講談社+α新書)

●小倉純二著「平成日本サッカー 秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた」 (講談社+α新書) 読了。著者は元日本サッカー協会会長(というか専務理事時代のほうが記憶に残っている)であり元FIFA理事。貴重な昔話から、近年のサッカー事情に至るまで、興味深い話が山ほど書かれている。半ば自伝的であり、半ばサッカー国際政治論でもある一冊。もともと古河電工の一社員にすぎず、なんのサッカー経験もなかった氏が、やがてJリーグ設立の立役者になり、さらにアジアサッカー連盟やFIFAで外交的な手腕を発揮していく。ワールドカップを日本に誘致した際には、日韓共催での日本側の総責任者にまでなる。日本におけるサッカー人気とサッカー界の地位向上は、ピッチ上の選手たちの活躍以上に、その周囲で働くサッカー人たちに支えられてきたのだと痛感せずにはいられない。その決断力と実行力は並大抵のものではない。日本のプロ・サッカーって、設立に関わる人が元代表選手も含めて、多くが国際的な大企業でばりばりと働く本物のビジネスマンだったから、うまくいった面が確実にあると思う。
●近年の話では、第8章「黒いワールドカップ FIFAスキャンダル」がおもしろい。前々から噂されていた話だが、アンダーエイジのアジアの大会で、中東勢は平気で年齢を詐称して大人の選手が出てくる。U-16の大会なのに、ホテルで食事をしていると中東の選手が子供が何人も写ってる家族写真を見せに来たりする。あまりに不条理なので、日本側はレントゲン写真で成人かどうかを検査する案を出したが、健常者へのレントゲン撮影は欧米が絶対に納得しないと却下されたため、MRIで骨年齢を測定する検査を導入することにしたという。試合はこんなところからすでに始まっている。
●もうひとつ、前評判を覆して2022年にカタールでワールドカップが開催されることに決まった際の投票の話も見逃せない。この大会にはカタールのほかにアメリカや日本なども立候補していた。どう考えても夏の大会で灼熱のカタールは不利のはず。でも決選投票でカタールが勝った。どうするのよ。

 カタールの勝ちが決まったとき、アフリカの理事の奥様方から桁外れの大歓声が沸き起こったのも異様だった。
「何を約束されていたんでしょうね?」
 思わず、そう私にこぼした日本の招致関係者がいた。

 なにが起きたかを雄弁に物語っているが、だからといって、22年のカタール開催をだれも覆すことはできない。政治そのものという気がする。