September 15, 2020

山田和樹指揮NHK交響楽団の武満、モーツァルト、ブラームス

●12日夜はNHKホールで山田和樹指揮NHK交響楽団へ。本来はパーヴォ・ヤルヴィが指揮する予定だった公演。首席指揮者パーヴォの公演とあって、ぎりぎりまで可能性を探っていたようだが、やはり渡航制限のため来日できず。曲目も一部変更。武満徹の「弦楽のためのレクイエム」、モーツァルトの交響曲第29番イ長調、ブラームスのセレナード第2番イ長調。このプログラムだと休憩ありかなしか微妙な線だと思ったが、休憩なし。実は正味の演奏時間でいえば休憩ありとなしの差は案外少ない。
●大編成の作品がすっかり消えた結果、どこの楽団も室内オーケストラみたいなプログラムばかりになってきて、結果的に新鮮味のあるプログラムが増えている。N響の底力を感じる公演だったが、特に印象的だったのはモーツァルト。最近ではまったく聴けなくなったスタイルのモーツァルトで、ひたすらしなやかでみずみずしく、甘美。角をきれいに丸めて、磨き上げたシルキーなサウンド。近年、自分が好んで聴く鋭利でアグレッシブなモーツァルトとは対極にある。この曲、外観は4楽章制のかっちりした交響曲だけど、こういった演奏で聴くとすごくオペラ的だなと感じる。プリマドンナがいる曲、というか。「モーツァルトのピアノ協奏曲はすべてオペラの翻訳である」と言ったのはアンヌ・ケフェレックだが、一時期の交響曲にも同じことが当てはまるのかもしれない。
●ブラームスのセレナード第2番は珍しいヴァイオリンなしの曲。シンフォニックな第1番に比べると地味な曲だと思っていたが、名手ぞろいで聴くとやはり楽しい。心地よい愉悦にあふれている。ヴァイオリンを必要としない管弦楽曲はあることはあるけど(バッハのブランデンブルク協奏曲第6番とか、ドヴォルザークらの管楽セレナード系の曲とか)、演奏会のメインプログラムでヴァイオリン不在のケースは相当珍しいのでは。こういう場合、ヴァイオリン奏者たちは先に帰宅しちゃうんでしょうか。首席ヴィオラ奏者がコンサートマスターの場所に座って、楽員に立ったり座ったりの合図を出す場面はなかなか目にできない。
●開園時に楽員が入場した際、拍手が起きた。これまで東京のオーケストラの定期公演では、オーケストラの入場時に拍手をしないのが普通だった(海外や地方など、よその土地からやってきたオーケストラに対しては拍手が出る。そういうルールが自然発生的に定着していた)。しかし、緊急事態宣言後に音楽界が再開されてからは、拍手が出るようになっている。喜びと歓迎、感謝の意思表示だろう。これが新しい習慣として根付くのか、また元に戻るのかはわからない。だれが決めるというわけではなく、わたしたちみんなで決めるわけだが……。

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