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October 29, 2020

映画「TENET テネット」の弾痕問題

●少し前にクリストファー・ノーラン監督の映画「TENET テネット」を紹介したが、あの映画では「時間の逆行」がストーリーの柱になっていた。人間がある特定の場所を通ることによって、時間を逆行する。これはタイムトラベルのように一瞬で過去にジャンプするのとは違う。通常の時間の流れと同じ速度で逆行するんである。1時間過去に遡るには、1時間必要という設定。
●で、映画中になんども出てくるのが逆行弾。時間を逆行する人物が銃を撃つ場面を、順行している人間が見ると壁にめり込んでいた弾が銃口に収まるように見える。これはわかる。映像の逆回しと同じだ。冒頭のオペラハウスの場面で、めり込んでいた弾丸が元の銃に戻る場面がある。これは逆行する人物が撃った弾が、順行する人間にはそう見えたわけだ。オスロ空港に侵入した主人公はガラスに弾痕があるのを見かける。これも後で逆行する人物が銃を撃って、弾痕が付いたのだとわかる。しかし、そうすると大きな疑問がわく。だったら、オペラハウスは建築されたその時点で、最初から弾がめり込んでいなくてはおかしいんじゃないか。ガラスも新品で納品された時点から弾痕が付いていなくてはおかしいんじゃないか。そうでなければ、いつ弾痕が付いたのかという疑問が残る。逆行する人物が銃を撃ったということは、その先に銃弾がめり込んでいたから撃てる(無から弾は生まれない)。でも、新品のガラスに弾痕が付いているなんて、そんな前提はおかしい。
●と思っていたら、YouTubeでこの弾痕問題を量子力学の観測問題に結び付けて考察している方がいて(「銃弾の跡はいつからあったのか?」問題の考察)、なるほど、それはおもしろいなと思った。つまり傷のないガラスと弾痕のあるガラスは重ね合わせの状態にあって、主人公がそれを観測することで弾痕のあるガラスに収縮しているという見方。この動画では量子力学入門のお約束、二重スリット実験や「シュレディンガーの猫」についても程よく簡略化して解説されている。
●ニールがなんどか口にする台詞、「起きたことは仕方がない」What’s happened, happened というのは、文字通り「起こったことはもう起こった」、つまり時間を逆行してもすでに起きたことは変えられないと言っている。ニールがたどり着く運命を思うと、なかなか味わい深い。