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December 18, 2020

「寒い国から帰ってきたスパイ」(ジョン・ル・カレ/早川書房)

●スパイ小説の大家、ジョン・ル・カレ(1931~2020)、逝く。89歳。あちこちで追悼記事が掲載されているが、その量と質がこの作家がなにを築いてきたかを雄弁に語っている。たとえば、BBCの追悼記事、あるいはこの解説記事。すぐれたスパイ小説の書き手が、実際にイギリスのMI5とMI6に所属した情報部員だった。それだけでもすごい話だが、1960年代から2019年にまでわたる創作期間の長さ、コンスタントに新作を発表し続けた持続力にも驚く。本名はコーンウェルで、ル・カレは筆名。どういう由来なんだろう。
●が、ワタシはさっぱり読んでいないのだ、ル・カレを。どうしてなんだろなー、やっぱり、読むべきでは? そして読むなら今しかない。そう思って、いちばん有名な「寒い国から帰ってきたスパイ」(ジョン・ル・カレ/早川書房)を読んでみたら、なるほど、これはおもしろい。ジェイムズ・ボンド的な超越的な存在ではなく、生身の人間としてのスパイ。マッチョでゴージャスではなく、体制と個人の間で揺れ動くスパイ。いや、そんな話は語り尽くされているか。この話、後の作品に比べると練れていないところもあるかもしれないが、ラストシーンがあまりに魅力的で好きにならざるを得ない。
●以前、タイム誌の「英語で書かれた小説オールタイムベスト100」の一冊に、この「寒い国から帰ってきたスパイ」が選ばれたことがあった。でもドイツが東西に分かれていた時代を知らない世代が読んでもおもしろいのかどうかはよくわからない。「ベルリンの壁」とはなにかという説明は、もちろんないので。逆に言えば、今読むから感じる懐メロ的な要素もあると思う。
●ほかの本も読みたくなった。次はどれにしようか、迷う……。