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February 16, 2021

「あらすじで読むシェイクスピア全作品」(河合祥一郎著/祥伝社新書)

●シェイクスピアにはもっぱら音楽作品(たまに映画)を通してしか触れていない者にとって、心強い「あんちょこ」がこの一冊。「あらすじで読むシェイクスピア全作品」(河合祥一郎著/祥伝社新書)。音楽作品には頻出するシェイクスピアだが、どんなストーリーかを説明しようと思ったら、けっこう難しい。「オセロー」「マクベス」「ロミオとジュリエット」あたりはまだ容易なほうで、たとえば「夏の夜の夢」はブリテンのオペラやメンデルスゾーンの劇音楽があってもやっぱり難しい。「ウィンザーの陽気な女房たち」なんて、ヴェルディの「ファルスタッフ」がなかったら相当厄介なのでは。「オテロ」といい「マクベス」といい、この分野でのヴェルディの功績は大。
●関連作品の多さにもかかわらず、なじみづらいのが「テンペスト」だと思う。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、チャイコフスキーの幻想序曲、シベリウスの劇音楽があって、特にベートーヴェンについては作曲者が「この曲を理解するにはシェイクスピアの『テンペスト』を読め」と言ったとするシントラーの逸話が残っているが、仮にこの話が真実だったとしても、「テンペスト」を読んでもさっぱり曲と結びつかないじゃないかという気がする。その点、ありがたかったのがMETライブビューイングで、以前にトーマス・アデスの「テンペスト」と、バロック名曲を集めたパスティーシュ「エンチャンテッド・アイランド 魔法の島」で、ともに「テンペスト」が原作になっていた。やっぱり舞台上演があると、イメージがわきやすい。もちろん、シェイクスピア劇そのものを舞台で観てもいいわけだが……。
●ところで、この「あらすじで読むシェイクスピア全作品」を読んでいたら、「なにしろ、エリザベス朝時代の舞台には舞台装置というものがなかったため、役者の気持ちひとつで、どんな場所にも変化することができた」とあるんだけど、これって知ってた? そう思うと、演奏会形式のオペラって、舞台上演を簡略化したものではなく、より根源的なドラマの形態に立ち返ったものと解せるのかも。