June 1, 2021

「カルメン」と「タマンゴ」

●ビゼーの超ウルトラ大傑作オペラの原作となったのが、メリメの「カルメン」(堀口大学訳/新潮文庫)。日本語訳は何種類か出ている。メリメの原作でしか味わえないおもしろもたしかにあるのだが、それ以上に感じるのはビゼーのオペラの巧みさ。オペラではドン・ホセをどこにでもいそうな生真面目な男として描くことで、観る人が容易に共感できるようになっている。原作でのドン・ホセは道を踏み外したアウトサイダーであって、どこか語り手の「私」から突き放されているようにも感じる。ONTOMO連載「耳たぶで冷やせ」に、「オペラ『カルメン』に登場する強烈キャラクターを原作から読み解く!」を書いた。ご笑覧ください。
●ところで、このメリメ「カルメン」では表題作と並んで「タマンゴ」という短篇が読ませる。題材は奴隷貿易。フランス人の船長はアフリカの港で奴隷たちを買い、植民地に売って荒稼ぎをしている。奴隷を調達してくるのは現地人のタマンゴ。腕っぷしが強く、情け容赦のない男だ。タマンゴは奴隷の売値について船長と交渉するが、ブランデーですっかり酔っていたこともあり、ささいなことで妻に腹を立て、勢い余って妻を奴隷として売り飛ばしてしまう。ひと眠りして酔いがさめた後、タマンゴは大変なことをしてしまったと動転し、船長を追いかけて妻を返してほしいと懇願する。そこで船長は思う。このタマンゴはさっき買った奴隷たちよりもよほどたくましく、高く売れそうではないか……。メリメの語り口が冴えている。
●「タマンゴ」はメリメ。「マタンゴ」は東宝特撮のキノコ怪人。

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