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June 15, 2021

「レス」(アンドリュー・ショーン・グリア著/上岡伸雄訳/早川書房)

●例の早川書房の夏のKindle本セールでゲットした「レス」(アンドリュー・ショーン・グリア)を読了。一昨年刊行されたときに気になりつつもタイミングを逸していたのだが、これは傑作。軽いタッチと読後感のよさが吉。主人公は50歳を目前とする作家アーサー・レス。ゲイである。元恋人から結婚式の招待状が届き、どういう口実で断ろうかと思案する。そこで式の当日に国外にいられるように、海外から招かれた仕事を引き受けまくり、ニューヨーク、ベルリン、パリ、モロッコ、京都を巡る旅へと出発する。元恋人との思い出に引きずられながら。ダメ男小説でもありゲイ小説でもあるのだが、間口は広い。ピュリッツァー賞文学部門受賞作。
●このレスという名前の主人公、客観的に見ればなかなかの作家なのだが、その名の通り、どこに行こうがなにをやろうが、どこかしら自分の欠如を感じずにはいられない人物像で、「パッとしない」感じが共感を呼ぶ。それぞれの旅先で起きる出来事はやたら可笑しく、そしてしみじみとさせる。語り口の饒舌さは大きな魅力。旅のなかで主人公は行き詰っていた最新作の解決策を見出し、これを書きあげる。
●ひとつ仕掛けがあって、ふつうに三人称の小説だと思って読んでいると、途中で「私」が出てきてギクッとなる。えっ、この「私」ってだれよ? 「叙述トリック」というようなものではないが、最後まで読めば意味はわかる。このあたりも巧緻。