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July 15, 2021

アンドラーシュ・シフの「ブラームス ピアノ協奏曲集」

●発売から少し日が経ってしまったが、最近聴いた新譜のなかで、もっとも楽しめたのがアンドラーシュ・シフ独奏によるブラームスのピアノ協奏曲集(ECM)。シフが弾き振りでエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団と共演している。Spotifyでも聴けるし、CDでもリリースされている。古楽オーケストラとの共演にあたって、シフは1859年頃制作のブリュートナー社のピアノを使っているそう。モダンピアノとはまったく異なる音色で、軽やかでニュアンスに富んでいる。シフはライナーノーツで(←CDに残された最後の特典)、現代の私たちは重量級のブラームスに慣れてしまったと指摘し、本来ブラームスの音楽は重たくも分厚くもなく、むしろ晴明で繊細であるという。
●きっと、それが真実なのだろう。一方で逆説的だが、このブラームスのピアノ協奏曲第2番を聴くと、これはとてつもなく巨大な音楽だと実感する。ひとつには独奏も管弦楽も楽器の性能を目一杯要求されるという点で、モダン楽器で聴くよりも音楽の大きさを痛感することもあるかもしれない。もうひとつは、やっぱりこれは録音だから。コンサートホールで聴くブラームスのピアノ協奏曲は、実はそんなに巨大でもないし重厚でもなく、むしろ多くの場合(自分の経験上)厚みのある響きを客席に届かせるのに苦労している。オーケストラの響きが分厚いとモダンピアノのフォルテッシモでさえ霞んでしまうし、かといって抑制的な鳴らし方では楽曲のスケールが伝わらない。でも、録音であれば1859年のピアノでも巨大な音像で再生される。一般に録音では近接的な音像が収められるので、ホールの客席というよりは独奏者の間近で聴いている感覚になる。このあたりの音像との距離感のマジックが、録音再生芸術のおもしろさか。ある意味、録音は客席よりも生々しい。

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