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December 26, 2022

「殺しへのライン」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●ワールドカップも終わったことなので、ようやくアンソニー・ホロヴィッツの最新刊「殺しへのライン」(創元推理文庫)を読む。この人の本を読むたびに、どうやったらこんなにおもしろい小説を書けるのかと感心する。元刑事の探偵ホーソーンと著者自身が、ホームズ役とワトソン役になって犯罪捜査に挑むという趣向のミステリ。ホームズばりに観察眼の鋭いホーソーンに対して、ワトソン役の著者はなんとも冴えない凡人っぷりなのがいい。主人公が著者本人という設定を生かして、作中人物に「ミステリでは犯人はいちばん意外な登場人物だ」みたいなことを言わせるなど、今作も軽いメタフィクション要素を含んだエンタテインメントになっている。
●ホロヴィッツのミステリはミステリと無関係な場面がやたらとおもしろい。事件など起きなくても一冊楽しく読めそう。著者が出版社に行って編集者やエージェントと打合せをする場面とか、文芸フェスの様子だとか、わりといじましい感じで本人が描かれているのが共感を誘う。著者がチャンネル諸島のオルダニー島で開催されるマイナーな文芸フェスに招待されて、そこで事件が起きるという話なんだけど、イギリスだと文芸フェスなるものが各地で盛んに開かれているんだというのが新鮮な驚き。あと、オルダニー島を観光する気分も味わえる。いや、観光じゃないな。出張気分を味わえる。あまり乗り気じゃなかった出張に行ってみると、初対面の人たちがなんだか気の合わなさそうな人ばかりで、うーんと思いつつも、なんとか気持ちを立て直そうとする感じの出張(って、あるじゃないすか)。