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March 2, 2023

「昼の家、夜の家」(オルガ・トカルチュク著/白水社)

●あれ、この本、なんのきっかけで読みはじめたんだっけ……Amazonのオススメだったのかな? 2018年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの作家オルガ・トカルチュクの「昼の家、夜の家」(小椋彩訳/白水社)。とてもゆっくりと時間をかけて少しずつ読み進めたので(そうしたくなるタイプの小説)、なぜこれを読みはじめたのかを忘れてしまった。どんな話かを一言で表すとすれば「辺境小説」。舞台はポーランドとチェコの国境地帯にある小さな町ノヴァ・ルダ。町はずれの山村に移り住んだ語り手と風変わりな隣人たちとの交流を軸に、土地に伝わる聖人の伝説やらキノコ料理のレシピやら寓話だとか妙な事件だとかが語られる。そして、ときどき背景に戦時の記憶や社会主義の残滓みたいなものが垣間見える。
●たとえば、あるドイツ人の話。かつて自分が住んだ家を見ようと、国境を越えてポーランドへと旅する。しかし登山中に発作を起こし、チェコとポーランドの国境を両足でまたいで絶命する。不思議な話、可笑しい話、怖い話、いろんな小さな物語が集まっているのだが、どれも多かれ少なかれ辺境的な要素を備えている。
●ノヴァ・ルダという町についての記述から少し引用。

太陽が昇らない町。出ていった人が、いつか必ず帰る町。ドイツが掘った地下トンネルが、プラハとヴロツワフとドレスデンに通じている町。断片の町。シロンスクと、プロイセンと、チェコと、オーストリア=ハンガリーと、ポーランドの町。周縁の町。頭のなかではお互いを呼びすてにするくせに、実際に呼ぶときには敬称をつける町。土曜と日曜には空っぽになる町。時間が漂流する町。ニュースが遅れて届く町。名前が誤解をまねく町。新しいものはなにもなくて、現われた途端に黒ずみ、埃の層に覆われ、腐っていく街。存在の境界で、みじんも動かずに、ただありつづける町。

●いろんなキノコが出てくる。ポーランド人はキノコ狩りやキノコ料理が好きなのだとか。おいしそうにも思えるし、ひょっとして毒キノコなんじゃないのという怪しさも漂う。