April 10, 2023

バッハ・コレギウム・ジャパンの「マタイ受難曲」

●7日は東京オペラシティでバッハ・コレギウム・ジャパン。聖金曜日に聴くバッハ「マタイ受難曲」。指揮は鈴木雅明、エヴァンゲリストにトマス・ホッブス、ソプラノにルビー・ヒューズ、松井亜希、アルトに久保法之、青木洋也、テノールに谷口洋介、バスにマーティン・ヘスラー、加耒徹。東京少年少女合唱隊も加わる。恒例の「マタイ受難曲」だが、7日と8日の2公演に加えて9日には青少年特別価格が用意された追加公演(この日のみ字幕付き)もあって、東京オペラシティで三日連続「マタイ受難曲」が鳴り響く。これは本当にすごいこと。
●自分が「マタイ受難曲」を聴くのはたぶん6年ぶりくらい。ワーグナーなどの大作オペラ以上に気合が必要な作品という認識なのでなかなか聴けないのだが、やはり特別な作品という気持ちを新たにする。清冽でありながら熱く強靭な魂のバッハ。エヴァンゲリストのトマス・ホッブスの声がみずみずしい。マーティン・ヘスラーのイエスはフレッシュで、深く温かみのある声質がいい。毎回思うことだけど、自分は完全に異教徒ポジションで作品に向き合うので、最初は他人事だと思って聴いてるのに、最後はものすごい喪失感が訪れるという音楽の力……。
●ふだん、自分はバッハのことをかなり仲良しだと思っているのだが、それはもっぱら世俗音楽を聴いているときであって、教会音楽を聴くと実は向こうはこちらを仲良しだとは思っていないことに気づかされる。あー、もしも歴史が少し違っていて、ケーテン侯がバッハをもっと長く留めてライプツィヒに行かせなければ、バッハは大量のカンタータの代わりに平均律クラヴィーア曲集第64巻とかブランデンブルク協奏曲第256番を書けたんじゃないかと夢想することがあるのだが、そっちの歴史線だと「マタイ受難曲」も「ロ短調ミサ」も誕生しなかっただろうからそれはやっぱり困るのだった。