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June 28, 2023

「台所をひらく」(白央篤司著/大和書房)と「おいしいものでできている」(稲田俊輔著/リトル・モア)

●最近読んだ食に関する本を2冊。どちらも秀逸。
●まずは「台所をひらく~料理の『こうあるべき』から自分をほどくヒント集」(白央篤司著/大和書房)。フードライターの著者が日々の炊事について記すエッセイ&レシピ集。というか、エッセイが主で、レシピは従。このエッセイ部分が本当に共感しかない。料理の本であるにもかかわらず、基本姿勢として「料理は好きだけど、でもやっぱりしんどい日も多いよね」といううっすらとした倦んだ気分が随所に漂っていて、そのリアリティが最高だと思った。そう、日々の生活のための料理とはそんなもの。レシピでいいなと思ったのは、目玉焼き丼。なんでこれを気づかなかったのか。なんというか、料理以前の「名もなき料理」みたいなのが、仕事の合間にささっと作る食事の基本だと思う。そこには「手抜き」と「超手抜き」以外のメニューに居場所はない。あと、「作る」より「片付ける」なんすよね、手をかけたくないのは。特に昼時は仕事に戻る前に労働をあまりしたくないので。
●もう一冊は「おいしいものでできている」(稲田俊輔著/リトル・モア)。料理人であり飲食店プロデューサーである著者の名は、よくSNSでも見かける。インドカレーなど、レシピ集も評判。この一冊は食についてのエッセイ集で、どれもこれも実におもしろい。文が巧み。薄いサンドイッチ、缶詰のホワイトアスパラガス、嫌いなカツカレー、本物のコンソメスープなど、話題は多岐にわたる。同じ著者の別のレシピ本にもあったが、著者はしばしばミニマリスト的な視点から、料理を簡潔化して、その本質がどこにあるかを探ろうとする。この本では「麻婆豆腐の本質」がそれ。ルーツに遡ったミニマル麻婆豆腐のレシピには、豆板醤も甜麺醤も出てこない。水溶き片栗粉も花椒も使われていない。味付けは一味唐辛子と黒胡椒、醤油、ニンニク、塩のみ。それは本当に麻婆豆腐なのかと思うけど、簡単でおいしければそれでいい。