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October 12, 2023

「言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか」(今井むつみ、秋田喜美著/中公新書)

●話題の新書、「言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか」(今井むつみ、秋田喜美著/中公新書)を読んだ。言語学の本で、決して平易な本ではないと思うのだが、15万部を突破したというのだから驚き。帯の惹句は「なぜヒトだけが言語を持つのか」。
●過半のページがオノマトペについて割かれていて、なるほど、おもしろい。オノマトペそのものが言語的であり、子どもが言語を習得する際にオノマトペがどんな役割を果たしているか、そしてオノマトペと一般語との関係性などが述べられる。特に印象的だったのは、オノマトペは異なる言語の話者にもある程度は類推可能であって、特定の音が特定の概念と結びつきやすいという話。たとえば、丸っこい形とギザギザした形を見せて、どちらが「マルマ」でどちらが「タケテ」でしょうかという問いを発すると、多くの言語の話者が丸っこいほうを「マルマ」、ギザギザのほうを「タケテ」と判断する。「そりゃあ、丸いほうがマルマなのは当然でしょ?」と思うかもしれないが、これはドイツの心理学者の研究で、すでにドイツ人が丸っこいほうに「マルマ」という架空の言葉を用意している時点で、音と意味の関係性がうっすら見えている。
●多くの言語で「い」の音が「小ささ」と結びつくという話や、主食を表す言葉に「パ」「バ」「マ」「ファ」で始まるものが多いという話も興味深い。食事を表す赤ちゃん言葉が、日本語で「まんま」、トルコ語で「ママ」、スペイン語で「パパ」というのも、これに関連していそうで、言葉を習得する前に必須の概念にはこういった音が使われる傾向があるらしい。赤ちゃんでも使える音、ということなのか。
●圧巻は終わりのほうで出てくる「アブダクション推論」(結果から遡って前提を推測する)を巡る、人間の赤ちゃんとチンパンジーの比較実験。ヒトは複雑な言語を持つが、チンパンジーはそうではない。それはこの推論能力の違いからくるのではないかという実験で、明快な結果が出るのだが、ただ例外的に実験に参加したチンパンジーで一体のみが、この推論能力を身につけていたって言うんすよね。本書の話題からは外れるんだけど、それってまさに「猿の惑星」じゃん!と思った。こういう賢いチンパンジーだけが生き残りやすい環境があったら、賢いチンパンジー同士で繁殖するようになり、やがて言葉を話すサルへと進化して……みたいな。