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April 5, 2024

「コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて 音響設計家・豊田泰久との対話」(豊田泰久、林田直樹、潮博恵著/アルテスパブリッシング)

●話題の本、「コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて 音響設計家・豊田泰久との対話」(豊田泰久、林田直樹、潮博恵著/アルテスパブリッシング)を読む。豊田泰久氏といえば、サントリーホールやフィルハーモニー・ド・パリ、ハンブルクのエルプフィルハーモニーなど、現代を代表するコンサートホールの数々を手がけてきた音響設計家。コンサートゴアーにとっては神様みたいな人だが、世界的音楽家からも絶大な信頼を寄せられている。そんな豊田さんと林田直樹さんによるオーケストラのサウンドを巡る対談集。ふたりの対談に加えて、合間に潮博恵さんによる俯瞰的な視点からのコラムが収められている。
●とくにおもしろいと思った点を挙げると、「お客さんの側の音響とステージ上の音響とどちらを優先するのか」問題。この問いに対する答えを、豊田さんですら長い間持っていなかったというのだけど、最近は自分なりの答えが見えたって言うんすよ。どちらをとるかとなったら、「ステージ上の音響が重要だ」と。その答えにたどり着くまでのロジックが、すごく興味深いと思った(第2章)。
●あと、第7章のミューザ川崎の話。ワタシは知らなかったんだけど、当初は税金を投入する公共のホールだから、プロオーケストラのためだけに作るんじゃ説明が難しいのでアマチュアにとって最高の音響を作ってほしいという要望があったのだとか。いかにもって感じだけど、それに対して豊田さんは、そんなものはありえない、いいホールを作っていいオーケストラをどんどん呼んでほしいとリクエストしたそう。結果的にこれが大成功したのはまちがいなく、ラトルもヤンソンスもあちこちでミューザ川崎がすばらしいって絶賛してくれたし、それを目にした聴衆も川崎に世界最高水準のホールがあることをあらためて実感できた。川崎という街の印象すら変わるほどのインパクトがあったと思う。川崎にウィーン・フィルやベルリン・フィルを継続的に呼ぶ背景にはそんな戦略性があったのかと腑に落ちた。
●音響についての工学的な話は意外と少なくて、音響よりも音楽寄りの話題が中心。音響設計そのものはサイエンスとテクノロジーの世界だと思うけど、その先のアートの部分、おもにオーケストラと指揮者による音楽作りに焦点が当たっている。