●15日はサントリーホールで尾高忠明指揮読響。ドヴォルザークのチェロ協奏曲(ラファエラ・グロメス)とエルガーの創作主題による変奏曲「エニグマ」のプログラム。前半のソリスト、ドイツのラファエラ・グロメスは今回が初来日。長身痩躯で、キラッキラの真っ赤なラメ入り衣装で登場。ま、まぶしい……。ロックスター然とした派手な姿で、弾くのはドヴォルザークというギャップが吉。演奏は流麗、スマート。アンコールでメッセージがあり、読響チェロ・セクションといっしょになってウクライナの作曲家ハンナ・ハブリレッツの「聖母マリアへの祈り」。深い祈りの音楽。思いが伝わる。ステージ上のふるまいの好感度が高く、スターになるのはこういう人だなと納得。
●後半は尾高マエストロ渾身の「エニグマ」。ノーブルさを保ちつつも、とてもエモーショナル。とくに「ニムロッド」は一段と彫りの深い表現。前半のアンコールに呼応するかのような祈りの音楽。最後の高揚感もすばらしく、至芸を堪能。あらためて傑作だと実感する。
●なにせ「エニグマ」と題されるくらいだから、これくらい思わせぶりな曲もないのだが、第13変奏ロマンツァに人物のイニシャルに代えて *** と伏字が添えられているのが想像力を刺激する。メンデルスゾーンの「静かな海と楽しい航海」が引用されるので、ヒントは船旅。通説のひとつは、オーストラリアへ旅立った貴族階級のレディ・メアリー・ライゴンを指すというもので、違和感はない。もうひとつの説は、ニュージーランドに移住したかつての婚約者ヘレン・ウィーヴァーというもの。婚約を解消したのは作曲時点から15年ほど遡る話なので、もしそうだとするとずいぶん古い話を持ち出してきたなという気もするのだが、ノスタルジックな曲調と辻褄が合う。どちらにしても確定的な資料はないと思うので、実は本人以外には知りようのないぜんぜん別の人でしたー、みたいな事態もないとはいえないが。
May 16, 2025