●17日はサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2025で、シューマン・クァルテットのベートーヴェン・サイクル第5夜。ブルーローズ(小ホール)での開催。全6夜にわたってベートーヴェンの全弦楽四重奏曲を演奏するシリーズ。この回はFreedomと題され、弦楽四重奏曲第5番作品18-5、「大フーガ」、弦楽四重奏曲第13番が並ぶ。つまり、「大フーガ」は独立した曲として前半に演奏し、後半に弦楽四重奏曲第13番を小規模なほうのフィナーレを使って演奏する。当初、ベートーヴェンは「大フーガ」を第13番のフィナーレとして書いたわけだけど、最終的に「大フーガ」は別作品として出版されたので、現実の世界線に従った形とも言える。
●この「大フーガ」が壮絶だった。渾身の演奏。とてつもなく巨大な音楽に圧倒されるばかり。当時、これを初めて聴いた人が「わけのわからない音楽だ」と感じるのも無理はない話。そもそも録音再生技術のない時代、あらゆる音楽は一回性のものだったはずで、フーガという形式自体が聴き手に対してハードルが高い。前半ですでにクライマックスが来た気分。
●と、思っていたが、後半の第13番も強烈で、ベートーヴェンが後から書いた「軽いほうのフィナーレ」が、ぜんぜん軽くないことを発見。とてもパワフルで情熱的なアレグロで、軽やかさはあってもそれは音楽の一要素に過ぎず、やはり大曲のフィナーレにふさわしいのだと納得。「大フーガ」との対照で、ついベートーヴェンが妥協して書いた楽章みたいに思ってしまいがちだが、それはまったくの勘違いで、これはこれで突きつめられたフィナーレなんだと思い直す。
●これで充足したのでアンコールはなくてもと思ったが(ここで席を立ったお客さんも何人かいた)、この日も第1ヴァイオリンのエリック・シューマンの日本語メッセージに続いて、翌日の予告編的に弦楽四重奏曲第6番の第3楽章。
●ベートーヴェン・サイクル、自分が足を運ぶのはこれでおしまい。全6夜のうち、半分の3公演を聴くことができた。今回、シリーズの曲目解説を書かせてもらったこともあって、例年よりたくさん足を運んだ。毎年思うのだが、このシリーズ、すべての回に通ったらどんなにすばらしい体験になるかと思うのだが、なかなか都合が付かない。でもチャンスがあれば狙いたいもの。たぶん、全部行って初めて味わえる感動があると思う。
June 19, 2025