●8日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮スイス・ロマンド管弦楽団。東京交響楽団のホームであるミューザ川崎で、ノットが別のオーケストラを指揮している。これはパラレルワールドに迷い込んだような不思議な光景。ノットは2017年よりスイス・ロマンド管弦楽団の音楽&芸術監督を務めている。
●プログラムはオネゲルの交響的運動第2番「ラグビー」、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番(上野通明)、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」(1911年版)。オネゲルは一応「お国もの」ということになるのか。「ラグビー」は好きな曲なんだけど、ライブで聴く機会はかなり貴重。スマートな演奏で爽快。同じフットボール仲間ということで、自分はサッカーのイメージで聴く。イメージとしては両チームともコンパクトな陣形を保ったままプレッシングの応酬を続けるモダンフットボールで、スコアは0対0だ。ショスタコーヴィチでは上野通明が縦横無尽のソロ。切れ味鋭く、気迫に満ち、しかも美音。この曲、初めて聴いたときから、冒頭主題の反復がなにかの警告みたいだなーと感じている。耳について離れない執拗さ。一本しかないホルンが活躍する珍しい曲。ソリスト・アンコールはプロコフィエフの「子供のための音楽」から「行進曲」。これはウィットに富んだ楽しい曲。
●後半のストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」は1947年の改訂版ではなく、より大編成の1911年版。改訂版のほうが色鮮やかでシャープな印象があるが、作品が当初与えた衝撃を重視してのノットらしい選択。情報量の多い細密なカオスが愉悦をもたらす。カラフルだけど、透明感があり、ふっくらと柔らかい質感のサウンドで、オーケストラの持ち味が出ていたと思う。満喫。とても盛り上がる曲なんだけど、最後はホラーのように不気味な叫びで終わるのが「ペトルーシュカ」。これで終わるわけにはいかないと、ノットはスピーチをして、その3年前に作曲された「花火」をアンコールに演奏。これもオーケストレーションがカラフルで、華やかに幕を閉じた。来日オーケストラのアンコールは気軽に聴ける有名曲が選ばれることが多いけど、こういう気の利いた選曲をしてくれるのがノット。ありがたし。
●カーテンコールをくりかえした後、ノットのソロ・カーテンコールに。なんだか東響のときとは違った雰囲気だなーと思っていたけど、ノットも楽員もみんなネクタイをせずにシャツの襟を開いているからなのかも。
July 9, 2025